再会

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「数年前のあのことは……悪かったと思ってる。州の式をあんなことにして。あれのせいで、俺に復讐したいんだとしたら——」 「別にどうでもいいし、関係ない。もともとすぐ別れるつもりだった」 枚田は目を見開いて、しっかりと州を捉えた。 それは強がりでもなんでもなく、彼の本心に違いなかった。 「どうでもいい?」 「相談所で適当に見つけた男だから。一度もセックスしないで綺麗に別れられたから、かえって好都合だった」 彼はベッドの上で足を組みかえながら、窓の外を見た。 もっともそれは、都合が悪くて目を逸らしたわけではなく、雲がビルの下に影をつくったのに気を取られたからだった。 「別れるつもりだった? 適当って……州はなんでそんな人と結婚したの?」 言いながら、自然と州の元へと歩み寄る。彼は無言のまま、自分のところへ吸い寄せられてくる幼なじみを見つめていた。 枚田はベッドに乗ると、州の膝にそっと触れた。 「あのとき、俺がどんな気持ちになったか考えた……?」 ついに感情の圧に耐えられなくなり、涙が出る。 彼の膝に額をつけて顔を隠すが、鼻をすする音まではごまかせなかった。 州の行動が理解できない。 決して険悪になったわけではない。ともに暮らし、それなりに心が通じたと思っていた。 なのになぜ、一方的に枚田を捨てたのか。 「州は、俺を苦しめたかったの?」 すると、彼が上体を起こした。寄りかかっていた膝が揺れて枚田も顔を上げたが、視線までは合わせられなかった。 「そろそろ、解放してやろうかなって思っただけだよ」 厚手のパーカーを着ていてもわかる、薄く骨ばった胸元にぼんやりと焦点をあてながら、彼の言葉を頭の中で繰り返した。 解放? それは反芻するごとに分解し、やがて意味を持たなくなった。 すると、ふいに顔を覗き込まれた。 毛穴ひとつ見つけられない、形のよい小鼻が、すぐそこまで迫っている。 「でも俺の結婚式で泣いてるマイを見たら、また気が変わった」 彼の息が、前髪を揺らす。 ごろりとした大きな黒い瞳は、微動だにしなかった。 「なに、それ……」 「やっぱり好きなんだよな。俺のことであたふたしてたり、泣いてるマイを見るのが」 瞬間、枚田は州の膝を叩きつけた。 それなりに痛みがあったはずだが、彼の表情は変わらない。口角を上げて、涼しげに笑っていた。 それはもう、愉快そうに。 彼に煽られるがままに、枚田は発火した。
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