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「じゃあちゃんと言って。結婚してほしくないって」
引き抜こうとする指に粘膜が絡みつく。全身で引き留めようとしてくるが、言葉での返答はなかった。
枚田は言い方を変えて、もう一度ゆっくりと発した。
「俺にずっとそばにいてほしいって、言って」
州は、顔を覆っている拳をゆっくりと開き、指の隙間からこちらを見た。
微動だにしなかった瞳が揺らぐのを、いまはじめて捉えた。
「そう言ったら、そうすんのか」
「そうするかは自分で決める。さっき言ったじゃん」
肩透かしを食らったのか、彼は呆れたように笑った。
「なんだよそれ。マイから先に言えよ」
「嫌だ。州からじゃないと俺も言わない」
それから、丁寧にキスをした。
彼の緊張をほぐすように、眉間や耳たぶにも唇を落とす。
枚田はなんとしてでも、彼から先に言って欲しかった。
いたずらや駆け引きなどではなく、一度でもまっすぐな言葉をもらえれば、もうそれだけでよかったのだ。
「俺のこと、好きって言って」
それでもなお無言を貫く州に、ほとんど甘えるように懇願した。
彼の胸に顔を埋め、彼の唇から、吐息にふるえた言葉が出てくるのを待つ。
しかし、いくら待っても、その望みが落ちてくることはなかった。
「州、おねがい……」
指で体をかきまわし、催促する。
「あっ、あっ!」
彼はそのたび体を浮かせて息を漏らしたが、出てくるのは快楽によって弾き出される喘ぎばかりで、言葉ではなかった。
「あ……っ、いくっ」
最終的に彼が発したのは、やはり枚田の欲しい言葉ではなかった。
宣言通り、体を震わせて喉を鳴らす。
枚田は指を引き抜いて、ティッシュで拭うと、体を起こした。
「もういいよ。よくわかった」
彼は気だるげに体を折り畳み、視線だけで追ってくる。
焦りでも浮かんでいれば、まだ気休めになるのにと思った。
「そうやってひとりで拗らせてろよ」
それから、興奮しきったままの下半身を隠すようにして背を向けると、部屋を出た。
感情がまとまらないが、少なくとも膨らみかけたものが萎んだのはたしかだった。
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