422人が本棚に入れています
本棚に追加
/193ページ
香りの正体
州と再会した翌日、意外な人物から連絡があった。
環の恋人である、寄田一沙だ。
環ではなく彼から「電話で話したい」と言われたときは、正直驚いた。彼とは何度か会ってはいるが、環がいないところで交流をしたことがなかったからだ。
先日の礼と、突然の連絡を丁寧に詫びた後、彼はためらいながら切り出した。
「州さんと会えたんですね。たまちゃんから聞きました」
「ああ、うん。結局、話し合えないままだったけどね」
彼が気まずそうに息をひそめたのが、スピーカー越しに伝わってくる。
「その後……連絡とかは?」
「取ってない。またいいように弄ばれちゃったよ。彼女との結婚を邪魔できて、気が済んだんじゃないかな」
あの後、環には州と会えたことを報告した。居場所や経緯について根掘り葉掘り聞かれ、その流れで映水とのことも話した。
だから寄田も、大体の内容は環を通じて知っているはずだ。
「彼女さんは……納得してくれたんですか?」
「まさか。全然だよ」
そうですか。
寄田は小さく、相槌を打っただけだった。
映水とは当然、あれで終わるわけもなく、あの後も話し合いを重ねている。
なんで。どうして。
二股していたのか。
忘れられない人がいたのなら、なぜ自分と付き合ったのか————
説明を求められ、仕事終わりに何度も彼女の自宅へ行った。席につくなり、あるいは電話口でも何度も責められた。
それが辛いわけじゃない。彼女が納得するまで向き合うのは当然だ。
映水とは明後日の休日にまた会うことになっている。
最初のコメントを投稿しよう!