香りの正体

2/4

422人が本棚に入れています
本棚に追加
/193ページ
「まぁでも、俺が全部悪いからね」 独りごとのように吐いた。 州のせいではない。全部自分で決めて動いたことだ。 わかっているものの、枚田の中には、州に対してふくらみきらない感情が居座ったままだった。 喪失とも、失望とも違う。 呆れももちろんあったが、もっと漠然とした無力感のようなものだ。 「あの、俺——ずっと黙ってたことがあって」 すると、寄田がついに切り出した。 そのためらい方で、いよいよ本題に入ったのだと悟る。 「この前会った時に言おうか迷ったんですけど、あの場で言ったら余計に困らせちゃうかと思って……」 彼から、なにを打ち明けられるというのだろう。 想像がつかず、枚田は相槌すらまともに打てなかった。 乏しい想像力のなかからいくつかを想定してみたが、彼から放たれた一言は結局、そのどれにも当てはまらなかった。 「金木犀のにおいがするんですよね。州さんから」 枚田は思わずその場で立ち上がった。 「え?」 「たまちゃんが言ってたんです。『州ちゃんから金木犀みたいな香りがするって、マイが昔言ってたんだけど、自分にはわからない。家の匂いなのかな』って」 たしかに言った。でもそれがどうしたというのだろう。 短く相槌を打ちながら、その先を手繰り寄せる。 「俺、その香り知ってます」 すると、寄田はきっぱりとそう言った。 「知ってるって?」 「嗅いだことはないですよ。ただ、似たような話を聞いたことがあって——」
/193ページ

最初のコメントを投稿しよう!

422人が本棚に入れています
本棚に追加