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「まぁでも、俺が全部悪いからね」
独りごとのように吐いた。
州のせいではない。全部自分で決めて動いたことだ。
わかっているものの、枚田の中には、州に対してふくらみきらない感情が居座ったままだった。
喪失とも、失望とも違う。
呆れももちろんあったが、もっと漠然とした無力感のようなものだ。
「あの、俺——ずっと黙ってたことがあって」
すると、寄田がついに切り出した。
そのためらい方で、いよいよ本題に入ったのだと悟る。
「この前会った時に言おうか迷ったんですけど、あの場で言ったら余計に困らせちゃうかと思って……」
彼から、なにを打ち明けられるというのだろう。
想像がつかず、枚田は相槌すらまともに打てなかった。
乏しい想像力のなかからいくつかを想定してみたが、彼から放たれた一言は結局、そのどれにも当てはまらなかった。
「金木犀のにおいがするんですよね。州さんから」
枚田は思わずその場で立ち上がった。
「え?」
「たまちゃんが言ってたんです。『州ちゃんから金木犀みたいな香りがするって、マイが昔言ってたんだけど、自分にはわからない。家の匂いなのかな』って」
たしかに言った。でもそれがどうしたというのだろう。
短く相槌を打ちながら、その先を手繰り寄せる。
「俺、その香り知ってます」
すると、寄田はきっぱりとそう言った。
「知ってるって?」
「嗅いだことはないですよ。ただ、似たような話を聞いたことがあって——」
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