香りの正体

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「——これは、俺なりの見解なんですけど」 そこまで話すと、寄田は咳払いをして声色を調整した。 その見解とやらはおおよそあたりがついていたが、はやる気持ちをどうにか落ち着けて、彼からの言葉を待った。 「Ωって、特別な相手にはフェロモンとは別の、甘い匂いを出すんじゃないかなって」 「特別な相手?」 「α以外を好きになった場合ってことです。Ωには元々、人を惹きつけようとする性質があるから、フェロモンが通じない相手には違う匂いを出すこともあるんじゃないかって」 その、どうしようもなく、好きな相手には—— 彼は最後に独り言のようにこぼした。それから「もし困らせていたらすみません」と何度も詫びてきた。 ——枚田は、電話を切ってからしばし放心した。まさか、長年の疑問がここにきて晴れるとは思わなかったのだ。 もちろん、今のは寄田のただの持論である。 しかし、チャペルへと続く通路で不意打ちで嗅いだ金木犀の香りに、自分は強くひきつけられた。 彼の甘い芳香は、映水との別れを惜しむことなく決断させたのだ。 枚田は頭をかいた。 寄田の持論が正しいのであれば、非常にシンプルなことなのだ。 なぜずっと、こんなにも回りくどいことをしているんだろう。 つむじに指先をあてて弧を描きながら——ふと、最後に州に放った一言を思い出した。 「俺も大概、拗らせてるな……」 枚田は独り言を落としてから、バスルームへと向かった。
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