422人が本棚に入れています
本棚に追加
/193ページ
告白
カフェの椅子の上に縛り付けられてから、すでに2時間以上経つ。
彼女からの叱責を一方的に受けるフェーズは過ぎて、今はもう次の段階に入っていた。
それは、もう一度再構築をしようという提案だ。
彼女からは、結婚できない理由がどこにあるのかを、根掘り葉掘り聞かれた。
また、枚田も、洗いざらい喋った。
昔から好いている相手がいたが、その人が結婚してしまったこと。
その後、映水と出会って交際をしたが、その相手の存在が、自分のなかで日に日に大きくなってきていること。
そして、それはもうごまかしようのない感情だということ。
彼女が求めるのならば、すべて話そうと思ったし、実際にそうした。
しかし、彼女は聞くだけ聞くと、半ば説得するようにこう切り返してきた。
いつかは忘れなければ前に進めないのだから、それならばもう一度やり直してみないか。
あの時は事を急ぎすぎたし、しばらく式のことは忘れてのんびり過ごそう。落ち着いたら自分たちのペースで将来のことを考えていけばいい———
正直、枚田にやり直す気はなかったが、早口で喋り続けられると、どうも気力を搾り取られてしまう。
まさかそう来るとは思ってもいなかったからだ。
「提案はありがたいけど、映水を裏切ったことに変わりはないから、そんなむしのいいことはできないよ」
枚田が言っても、彼女は食い下がってきた。
「私が許すって言ってるんだからいいんだよ」
決して許されているわけではないだろう。
むしろ、一生をかけて償えと言われているような気さえする。
「それに、その人はもう松君のところに戻ってこないと思う」
「いいんだよ。俺が勝手に引きずってるだけだから」
「人生は限られてるんだよ。前を向かないと、いつか後悔する」
気づけば諭される形になっていた。
いったい、自分のなにがよくてここまで引き留めるのだろう。
来るところまで来て、引くに引けなくなったのは、彼女も一緒なのだろうか。
枚田は、シュガーポットに小さなため息を落としてから、ふたたび顔を上げた。
このままでは尻が椅子の形に合わせて変形しそうだ。
気づけば、初めに入った頃から客がほとんど入れ替わっている。
最初のコメントを投稿しよう!