告白

1/6

422人が本棚に入れています
本棚に追加
/193ページ

告白

カフェの椅子の上に縛り付けられてから、すでに2時間以上経つ。 彼女からの叱責を一方的に受けるフェーズは過ぎて、今はもう次の段階に入っていた。 それは、もう一度再構築をしようという提案だ。 彼女からは、結婚できない理由がどこにあるのかを、根掘り葉掘り聞かれた。 また、枚田も、洗いざらい喋った。 昔から好いている相手がいたが、その人が結婚してしまったこと。 その後、映水と出会って交際をしたが、その相手の存在が、自分のなかで日に日に大きくなってきていること。 そして、それはもうごまかしようのない感情だということ。 彼女が求めるのならば、すべて話そうと思ったし、実際にそうした。 しかし、彼女は聞くだけ聞くと、半ば説得するようにこう切り返してきた。 いつかは忘れなければ前に進めないのだから、それならばもう一度やり直してみないか。 あの時は事を急ぎすぎたし、しばらく式のことは忘れてのんびり過ごそう。落ち着いたら自分たちのペースで将来のことを考えていけばいい——— 正直、枚田にやり直す気はなかったが、早口で喋り続けられると、どうも気力を搾り取られてしまう。 まさかそう来るとは思ってもいなかったからだ。 「提案はありがたいけど、映水を裏切ったことに変わりはないから、そんなむしのいいことはできないよ」 枚田が言っても、彼女は食い下がってきた。 「私が許すって言ってるんだからいいんだよ」 決して許されているわけではないだろう。 むしろ、一生をかけて償えと言われているような気さえする。 「それに、その人はもう松君のところに戻ってこないと思う」 「いいんだよ。俺が勝手に引きずってるだけだから」 「人生は限られてるんだよ。前を向かないと、いつか後悔する」 気づけば諭される形になっていた。 いったい、自分のなにがよくてここまで引き留めるのだろう。 来るところまで来て、引くに引けなくなったのは、彼女も一緒なのだろうか。 枚田は、シュガーポットに小さなため息を落としてから、ふたたび顔を上げた。 このままでは尻が椅子の形に合わせて変形しそうだ。 気づけば、初めに入った頃から客がほとんど入れ替わっている。
/193ページ

最初のコメントを投稿しよう!

422人が本棚に入れています
本棚に追加