告白

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ぼうっと周囲を見渡して、映水が荷物を取るために屈んだ瞬間——枚田は、覚醒した。 彼女に重なっていて気づかなかったが、真後ろの席に州が座っている。 いったい、いつからいたのだろう。 絶対に会話を聞かれていた——意識し出すと、顔が熱くなった。 幸い、映水は枚田の変化に気づかなかったらしい。 「とにかく、場所を変えてもう少し話そう? トイレ行ってくるから待ってて」 彼女はバッグから取り出したポーチを片手に席を立ち、歩いていってしまった。 おそらく化粧直しだから、このまま15分は帰ってこないだろう。 姿が見えなくなるまで視線で追っていると、椅子を引く音がこめかみに響いた。 先ほどまで映水がいた席に、州が座っている。 まるではじめから自分の場所だったかのように、ゆったりと背もたれに寄りかかり、足を組む。 浮かせたほうのつま先で、枚田の脛を押した。 「あの人、まだSNSに情報垂れ流してるぞ。最近は感傷的なポエム付きで」 まるで自分がまったく関与していないかのような口ぶりだ。 枚田に関わる人間を「あの人」と冷たく呼ぶのも相変わらずだった。 「自分だって、そのSNS見て、俺の動向チェックしてるじゃん……」 州はごくわずかに口角を上げたが、笑うまでには至らなかった。 「また流されてんのかよ」 「なにが?」 「一度別れ話したんだろ。さっきからペースに押されてまた絆されかかってんじゃん」 枚田は感情のままに反論してしまいたい衝動を堪えて、膝の上で拳をつくった。 「そうだよ」 脛を圧迫していた彼のつま先が、ふと浮いた。 「州の言うとおり。俺は嘘つきで、すぐ楽な方に流されるから……」 州はなにも言わない。 涼しい顔をしたまま、揺さぶりをかけてくる。枚田が顔を真っ赤にして動揺するのを、楽しんでいるのだった。 「まるで、俺といるのが苦しくてたまらないって言い方だな」 「そうだよ。当たり前じゃん。苦しくないと思ってた?」 州といるといつだって苦しい。 楽とは何なのか——あえて例えるとするならば、州以外のすべてだ。 「だから、解放してやろうと思ったんだよ」 すると、州はぽつりと、独り言みたいにこぼした。
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