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「大学卒業したら、マイとはもう会わないつもりだった。それがお互いにとって区切りがいいと思ってたから」
「合う抑制剤が見つかって、俺が用済みになったから?」
「そうじゃない。ただ、いろんなタイミングが重なっただろ。薬も見つかったし、就職先も別々になった。お前を自由にしてやれるのは、あの時しかないと思ったんだよ」
自由? 都合よく言い換えただけじゃないのか。
州は、一度遠くを見て——おそらく映水が戻ってこないかを確かめてから、また枚田の胸元らへんに視線を向けた。
「でもまあ——仕事があまりにも忙しくて、あとは抑制剤の副作用もあったんだろうな。マイと離れてる間、思った以上にしんどかった」
「だったら、そう言ってくれればいいじゃん……」
州に言われたら、たとえ真夜中でも車を飛ばして会いに行っただろう。
枚田はいつだって、求められるのを待っていたのに。
「そういうわけにいかないだろ」
「なんでだよ!」
「一度でも会ったら、今度こそもう離してやれない」
ぎゅっと、心臓が攣るような感覚が走る。
居丈高な州が一段と細く、小さく見えた。
彼が腕を組んでいなければ、思わず手を握っていただろう。
「でも、会いに来てくれたじゃん……」
「離れて過ごしてる間、マイがどんなふうにやってるのか見てみたかった。声はかけないつもりだったし」
展示会場で、彼はただこちらを見ていた。
枚田が気づかなければ、あのまま顔を合わすこともなかったのかもしれない。
「それでわかった。マイはマイで、もう別の世界を生きてるんだなって」
「だからって、結婚したの!?」
「そうでもしないと、お前とはすっぱり終われないと思ったんだよ」
発言と行動に矛盾があるが、その時は少なくともそういう気持ちでいたのだろう。
一見、自身の未来を着々と設計しているようで、実は後先を考えないところが、彼にはある。
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