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枚田は駅方面につま先を向け、歩き出した。
すると、ふと背後に車——それも大型車両特有の圧迫感を感じて、端に寄った。
立ち止まっても、追い抜いかれる気配はない。
業者のトラックがここで搬入出でもしたいのだろうか。
しかし、枚田がふたたび歩き出すと、大型車両もそれに合わせるかのように動き始めた。
軽く振り返ると、白いボディがすぐ近くまで迫っており、ぎょっとする。てっきりトラックだと思ったそれは、中型のキャンピングカーだった。
次の瞬間、勢いよくクラクションを鳴らされて、枚田は怯んだ。
それからようやく、運転席にある小さい顔をとらえたのであった。
「え!?」
思わず目を見張る。
運転しているのは、紛れもなく州だった。
「早く乗れ」
そのうちに後続車が来て、指図されるまま、慌てて助手席に乗り込んだ。
車内はまだ真新しい匂いがする。
扉を閉めると、彼はすぐに発進し、前を向いたまま「遅い」とだけ言った。
「この車、どうしたの?」
間違いなく新車だ。一体いくらするというのだろう。
「俺の新居。マイに振られたら、このままひとりでどっかいく予定だったから」
「冗談でしょ?」
「真面目にだよ」
車を運転している姿を見るのは初めてで、不覚にも見惚れてしまう。
ふっくらとしていた頬が、いつの間にこんなにシャープになったのだろう——凛とした横顔に、彼が大人になったことを改めて実感した。
「俺に振られるなんて、どうせ思ってなかったくせに」
「予想してたより2分遅かったよ。店出てくるの」
「たった2分かよ」
前を向いたまま、州は微かに笑っている。ハンドルを叩く指先は軽快だ。
「新しゅうまいハウスにようこそ」
それから、彼は棒読みのまま言った。
その抑揚のない言葉ひとつで、枚田の世界はさらに澄み渡る。
広いフロントガラスから見える空は青々とし、隣に座る彼の髪の毛一本一本まで鮮明に見えた。
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