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新しゅうまいハウスと称した車内は、コンパクトながらダイニングテーブルと簡易水栓がついていて、さらに奥のスペースには、大人2人が横になれる広さのベッドが設置されていた。
枚田は州に背を向け、慌ただしく体を拭きながら、設備をまじまじと見た。
「俺の家より豪華だ」
築35年の木造アパート、それも畳である自宅を思い浮かべながら——枚田は苦笑いをした。
衣服を整えてから、窓のそばに近づく。
室内はすべてカーテンが引かれたままで薄暗い。少し光を取り入れただけで目が眩んだ。
「旧しゅうまいハウスからずいぶんアップグレードしたね」
「大人になったからな」
州のかつての年収など知らないが、少なくとも自分の倍はあったのだろうな。そんな俗っぽい考えを笑いと共に吐き捨てた。
「お、ちゃんと水出る」
枚田はとりあえず水栓を捻ってみたり、冷蔵庫を開けたりと、車内の設備を触って歩いた。
ひと通り満足したタイミングで、ふたたびカーテンに指を引っ掛ける。
半分ほど開けて室内に光を取り込むと、フローリングの色が赤褐色であることがはじめてわかった。
「光が入るとまたいいね」
「そう?」
州はベッドに腰掛けて、興味もなさそうに相槌を打った。
先ほど枚田が外したシャツのボタンはそのままで、胸元が開いている。
「なんでカーテン開けないの」
「なんで開けなきゃいけないの」
「いや、だめってことはないけど……明るいほうが気持ちいいじゃん」
州はあくびをしてから、そのまま気だるそうに寝そべった。
猫のように体をしならせながら、何度か寝返りを打ったのち、枚田に視線を寄越した。
「暗くしたほうが、もっと気持ちよくなれるのに?」
そして、シーツの寄りを指でなぞりながら、うっすらと笑う。
「州……っ」
枚田は瞬時にカーテンを閉め、ベッドにダイブした。
「ちょ、重い」
陽光を受けたカーテンから、暖かさが漏れてくる。
こぼれ落ちた陽の粒が、州の前髪に留まった。
光にあたっても透けることのない、しっかりと色素の入ったまっすぐな毛。
指を通して何度か撫でてから、頭頂部にキスをした。
「州……」
それから、彼の頬に触れてはじめて、枚田は安心した。
そして、先ほどの彼の勇気に、改めて心打たれるのだった。
「俺も好きだよ」
冷静な州の視線が、微かに揺れた。
彼の目は枚田の唇を捉えている。こちらを直視できないのと、キスで間を繋ぎたいという意図があるのだろう。
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