馥郁の午後

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「マイ、こっち……」 キスが落ち着くと州はそっと体を離し、枚田の胸を押した。 それから、こちらに背を向けて四つん這いになると、また深くつながることを求めてくる。 「あっ!」 州は喉を鳴らしながら、新たな刺激に震える。 そのあまい振動で、枚田も油断すると果ててしまいそうだった。 動きを止めて、彼のうなじに唇を当てて小休止する。 過去につけた、薄くケロイドのようになった噛み跡を舐めると、州の体が強張った。 「噛めよ」 それから、彼は言った。 投げやりのように聞こえたのは、照れ隠しなのだろう。 枚田は彼の腰を掴んでゆっくりと突いた。 「噛むね……」 快楽によって彼の体から強張りを取ると、体をつなげたまま体を折り畳み、躊躇なくうなじを噛んだ。 痛みを感じたらしい彼の首が筋張り、全身に力が入る。 くっきりと歯型がつき、うっすらと血が滲む肌を、今度は優しく舌で撫でてやった。 「州、好きだよ……っ」 多くのものを欲しない彼から求められること。自分が選ばれたこと。 その事実ひとつひとつをなぞっていくたびに、震える。 「あっ、んっ、んっ!」 キスをしてから、ふたたび動き出す。 州の体はすっかり柔らかくなり、どこまででも深くつがることができそうだった。 顔が見たくて、彼を再び仰向けにし、脚を折りたたむ。 「あー……っ」 真上から、深く挿入すると、切長の目尻に涙が溜まるのを確認した。 「州、もういく——……、いってい?」 肩に爪が食い込み、彼も同じ状況なのだとわかると、枚田はもう遠慮しなかった。 抱えた膝にキスをしてから、腰を打ちつける。 車内が揺れ、カーテンの裾ががひらひらと舞う。 「州、中に……」 彼は拒否しなかった。 それから彼の前に手を伸ばし、刺激してやると、ほぼ同時に果てた。 枚田は肩で呼吸をしながら、州の胸に重なった。 互いの肌が、汗で吸い付く。 枚田は彼の胸に耳を当て、カーテンと窓のわずかな隙間に目を止めた。 夕方の色をした、光の一本線。 徐々に穏やかになっていく彼の心音。 それから金木犀の甘い香り。 幸福の余韻は、瞬きするごとに深くなった。
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