馥郁の午後

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枚田は寝返りを打ち、州に被さるようにしてうつ伏せになると、肩甲骨に顎を乗せた。 「環には厳しいんだね。自分は2回も結婚しといて」 彼の背中が動き、枚田の顎までもを揺らした。 「2回なんてしてない」 振り返りもせずに彼が放ったのを見て、枚田はふと不安に駆られた。 上半身を起こし、その小さな後頭部を見下ろす。自身にかかった影に気付いたのか、州も続いて怪訝そうに振り返った。 「なんだよ」 「さっきの、だめってこと?」 「は?」 「俺と結婚してくれるんだと思ってたから……」 それを聞いて、州が顔を突っ伏した。 それから肩を震わせる。 肩甲骨が波打つのを、枚田は呆然と眺めていた。 「前ん時は籍入れてなかったってことだよ」 「……え!? そうなの!?」 「式挙げた後に入籍予定だったけど、誰かさんがぶち壊してくれたからさ」 枚田は途端に恥ずかしくなって、あぐらをかいた。 つまり、厳密には——枚田とのそれが、初婚になるというわけだ。 「でも、それと環の結婚とは別だ。まだ22だし、将来を決めるには早すぎる」 「またそこに戻るんだ……」 「マイ、環に加担するなよ」 枚田は彼を背後から抱きしめて、耳打ちをした。 「今は俺とのこと考えてよ」 耳たぶを食むと、ほんのり熱を持っていた。 どうやら照れ隠しのために、環を隠れ蓑にしただけらしい。 「州、ずっと一緒にいようね」 すると、珍しく彼からキスを仕掛けてきた。 それだけのことで感動し、震える。そして繰り返すうちに下半身が反応してしまった。 州の指がすかさず伸びてきて、枚田はあっという間に捕えられた。 彼の手の中ですでに音を立てているのが恥ずかしくもあったが、だんだん麻痺していく。 「このままふたりで旅に出るか」 「旅……? でも会社があるから、有休取るならもう少し——」 「いいじゃん、一旦辞めれば。気まずいだろ」 枚田ははっとした。 今の職場には映水がいる。二度と会わないと言って出てきたわりに、肝心なことに気づかなかったのが、我ながら間抜けだと思う。 「でも……」 反論が、興奮に包まれて喉の奥から出てこない。 州はこちらの呼吸の乱れを楽しむように見上げながら、枚田の顎を甘噛みしてくる。 先走りによる摩擦で、強烈な快感が押し寄せて、思わず情けない声が漏れてしまった。 「あ、もういく……」 「行くんだな? じゃあ出かけるか」 それから手を止められてしまう。 枚田が首を左右に振ると、彼は愉快そうに笑って、枚田の輪郭をキスで辿った。 さんざん焦らされたあと、ようやく果てる事を許される。放った後は——疲労でぐったりとした。
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