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裏切り
州ちゃんがいなくなった。
聞き慣れたその宣告を嚥下した時、枚田松造を襲ったのは、困惑ばかりではなかった。
寒い季節にシャツを羽織った時、静電気で肌にまとわりつくそれを少しずつ剥がしていくような、煩わしさが大半。
しかし、皮膚を撫でつけられるたび、ごくわずかにだが、妙な心地よさを覚えたりもする。
そしてそれは、失踪という事実そのものにではなく、失踪者——すなわち、白石州本人に紐づけられた感情だった。
しいて言えば、億劫な気持ちと懐かしさが絡まり合った、ひとつの繊維みたいなもので、枚田はその繊維でできたシャツを、ずいぶんと長いこと身につけていた。
静電気に取り巻かれてうんざりし、何度か脱ごうとしたこともあった。
しかし、結局自ら脱いだことは一度もない。
州本人から一方的に引き剥がされた、あの日までは——
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