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衝動
日常は号令に合わせてやってくると、一時的に枚田を平穏に引き込んだ。
それから3日ほど、それは保たれた。
初日は、深く考えないように。2日目は、忘れてしまおうと努力して——そして3日目は、すべて自分の見間違いだったのだと思い込もうとした。
積田も州も、あまりにもいつも通りだったから、枚田もどうにかして、元の世界に留まろうと思ったのだ。
しかし、できなかった。あの瞬間に居合わせてから、すべてが変わってしまっていた。
——それから、土曜日を迎えた。
「マイー、宿題しよー」
州は昼ごろ、午前中の習い事を終えたタイミングで家に遊びに来た。
宿題をしようという名目で訪れた彼を、母親が歓迎しないわけがない。
彼女はちょうど昼だからと、ファストフード店で調達してきた食事を差し入れてくれた。
州は、枚田の家でたびたび出される市販の菓子やジャンクフードを喜んだ。彼の家では日頃から母親が体に優しい食材——甜菜糖やら全粒粉などを用いて菓子を手作りしていたのである。
漢字ドリルを適当に片付け、音読はやったことにして互いのカードに丸を付け合うと、あとの時間はいつも通り、ゲームに興じた。
もちろん、彼が気に入っている対戦ゲーム「スマシス」だ。彼のリクエストに対し、枚田は素直に応じた。
「州、ポテトにケチャップつけないの?」
「だって、もう塩かかってるじゃん」
州は、ケチャップの入った小皿に一瞬、視線を落としたが、またすぐに前を向いてしまった。
「そうやって、気をそらそうとしたって無駄だから」
どうやら彼は、対戦ゲームで不利になるよう仕向けられていると思ったらしい。
「別にそんなつもりじゃないよ。ただおいしいから言っただけ」
枚田はコントローラーを握り直すと、州の操っているキャラクターにとどめを刺した。
唯一、ゲームの技術に関してだけは、州よりも優れているといえる。
彼が塾に行っている間にやり込んでいるだけのことだから、特に自慢できることではなかったが、それでも悔しそうに唸る州を横目で見るのは気持ちがよかった。
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