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州にはその翌朝、もう一度詫びた。
彼はもう昨日の怒りを引きずってはいなかったが、得意の沈黙で枚田からの質問を封じた。
枚田がなぜあんなことをしたのかは、州からも聞いてこなかった。
しかし、聡い彼のことだから、きっとわかっていたはずだ。
下手にこちらを責めれば、自分と教師との、あの秘め事を引き出されてしまう。だからあえて枚田には何も聞かず、また枚田にも質問の余地を与えなかったのだろう。
しかし、枚田の心中はというと、元通り穏やかにというわけにはいかなかった。
なぜ自分は、あんな行動を取ってしまったのか。
彼の肌に吸い寄せられるように、距離を詰めてしまったのか。
得体の知れない感情は、夜な夜な小さな胸を締め付けた。
保健室での出来事を皮切りに、自分の一部が別のなにかにそっくり乗っ取られてしまったのだとさえ思った。
しかしその恐怖も、そう長くは続かなかった。
それは、秋が深まり、やや厚着になった州の膝小僧が隠れるようになったからではない。
州に向けたあの時の行動が、はっきりとした肉欲であり、本能であったことを、ある機会に確信したからだった。
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