422人が本棚に入れています
本棚に追加
/193ページ
第二の性
4年の初冬に、特別授業が開かれることになった。
その内容については、一部のクラスメイト達の間で話題になっていたらしい。
授業を翌日に控えた今日の放課後は、好奇心と微かな興奮に満ちていた。
「明日やる特別授業の内容、知ってる?」
「さぁ」
下校時、州に話題を振ってみるが、彼は興味がなさそうに相槌をうつだけだった。
「まるちゃんが言ってたんだけど、なんかすごい内容らしいよ」
「すごいってなにが?」
「さぁ……。それは俺にもわからないけど」
本当のところ、言葉のニュアンスぐらいは理解していた。「すごい」というひと言の中に性的な意味が含まれていることにも。
だが、彼にそれを伝えるのは躊躇があった。
「それよりお前、ランドセルうるさいよ」
揺れるたびに金具がカタカタ鳴るのが、どうも気になるらしい。
枚田のランドセルの冠を2、3度叩く。
「あー、タブレット入ってるからフタ閉まんないんだよ」
「また手提げ持ってきてないの?」
「うん。忘れちゃった」
枚田の背後に回り、どうにか閉めようとするが、無理らしい。
そんなやりとりをしていたら、いつもよりひとつ手前の角を曲がってしまった。
——その時、ふと覚えのある甘い香りがして、枚田は振り返った。
香りの正体は州だとばかり思っていたが、彼とは歩幅一歩分ぐらい、距離が空いていた。
「金木犀のにおいがする」
すると、州が鼻を鳴らした。住宅地の一部に植えられた大きな木に、オレンジ色の花が咲いている。風に乗って、時折強く香った。
「これ、金木犀のにおいなんだ」
「知らなかったのかよ」
「うん。においは知ってたけど……」
なんだそれと、州が笑う。
まさか自分から同じにおいがするだなんて、思ってもいないのだろう。
「いいにおいだよね」
枚田が言うと、彼は眉を顰めた。
「そう? 芳香剤みたいじゃない?」
枚田は首を左右に振って、それからわざとらしく鼻を鳴らした。
「俺は好き」
鼻にこびりつくような甘ったるい芳香を嗅ぐたび、心がざわつくのだった。
最初のコメントを投稿しよう!