第二の性

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第二の性

4年の初冬に、特別授業が開かれることになった。 その内容については、一部のクラスメイト達の間で話題になっていたらしい。 授業を翌日に控えた今日の放課後は、好奇心と微かな興奮に満ちていた。 「明日やる特別授業の内容、知ってる?」 「さぁ」 下校時、州に話題を振ってみるが、彼は興味がなさそうに相槌をうつだけだった。 「まるちゃんが言ってたんだけど、なんかすごい内容らしいよ」 「すごいってなにが?」 「さぁ……。それは俺にもわからないけど」 本当のところ、言葉のニュアンスぐらいは理解していた。「すごい」というひと言の中に性的な意味が含まれていることにも。 だが、彼にそれを伝えるのは躊躇があった。 「それよりお前、ランドセルうるさいよ」 揺れるたびに金具がカタカタ鳴るのが、どうも気になるらしい。 枚田のランドセルの冠を2、3度叩く。 「あー、タブレット入ってるからフタ閉まんないんだよ」 「また手提げ持ってきてないの?」 「うん。忘れちゃった」 枚田の背後に回り、どうにか閉めようとするが、無理らしい。 そんなやりとりをしていたら、いつもよりひとつ手前の角を曲がってしまった。 ——その時、ふと覚えのある甘い香りがして、枚田は振り返った。 香りの正体は州だとばかり思っていたが、彼とは歩幅一歩分ぐらい、距離が空いていた。 「金木犀のにおいがする」 すると、州が鼻を鳴らした。住宅地の一部に植えられた大きな木に、オレンジ色の花が咲いている。風に乗って、時折強く香った。 「これ、金木犀のにおいなんだ」 「知らなかったのかよ」 「うん。においは知ってたけど……」 なんだそれと、州が笑う。 まさか自分から同じにおいがするだなんて、思ってもいないのだろう。 「いいにおいだよね」 枚田が言うと、彼は眉を顰めた。 「そう? 芳香剤みたいじゃない?」 枚田は首を左右に振って、それからわざとらしく鼻を鳴らした。 「俺は好き」 鼻にこびりつくような甘ったるい芳香を嗅ぐたび、心がざわつくのだった。
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