第二の性

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中でも、教師がしきりに強調したのは、このような内容だった。 「今は第一の性・第二の性に限らず、結婚や職業、学問などのあらゆる自由が認められていて、権利は等しく与えられています。能力に優劣などはないし、性別で差別などしてはいけないのです」 「Ωでも活躍している人はたくさんいます。たとえばサッカー選手のナニナニさんや、作家のダレソレさん——」 教師はひとつひとつのエピソードを紐解き終わるたびにそのようなことを唱えたが、おそらくクラスメイトの誰もが、そんなことは気にも留めていなかったと、枚田は思う。 今の時代を生き、島国のごく小さなコミュニティに属する子どもたちにとっては、差別など、遠い昔に起きたこと、自分とは縁遠いものという感覚だった。 とにかく、その場にいた誰しもが気になっていたのは、自分の第二の性が何かという、その一点だ。 自分は何者で、これからどうカテゴライズされていくのか。自分が当てはまる様式がどういうものなのか——それは美しいのか、それとも苦悶なのか。小さな胸のなかを占拠するのは、新たな遭遇に対する期待と不安だけだった。 しかし、枚田にはある確信があった。 そして、州の白い膝を目にして突き上げた衝動、それから時折感じたあまい香りを、まじまじと認識した。 多分、間違いなく自分はαで、州はΩだ。 州に吸引されてしまうのは発情期の予兆である。きっと互いに早熟なのだろう。 得体の知れない不安から解放され、枚田は内容の大半を聞き飛ばしながら——膝を抱えて熱心に授業を聞く州を捉えた。 それから彼の頬や首、膝の白さをあらためて確認する。 枚田にとってその発見は、決して悪いものではなかった。
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