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儀式
逃避行とはいっても、少年ふたりの行動範囲には限度があった。
州はいくらか持ち合わせがあったようだが、枚田は水筒と学用品、それになわとびぐらいしか所持していなかったし、なにをするにもランドセルが目立つのである。
とりあえず電車に乗り、州のICカードにチャージされた金額ギリギリまで距離を移動したまではよかったが、それからの対策などなにもなかった。
右往左往したのち、結局は偶然見つけた公園に入った。ランドセルを背負ったふたりが溶け込める場所が、そこしかなかったのである。
家の形をした、四方が囲まれた遊具があったので、そのなかに身を寄せた。
幸い、屋根と壁はある。
中には開閉できる窓とカウンター、椅子が備え付けられていた。
「これ、どうやるの」
セロファンフィルムに包まれたおにぎりをくるくると回しながら、州が戸惑っている。
先ほどコンビニで調達してきた昼食だった。
「貸して」
海苔を破かずにフィルムを剥がしていくと、彼はその工程をまじまじと眺め、それから感心したような声を上げた。
たぶん、コンビニのおにぎりを食べる機会がなかったのだろう。
先ほども、店内で物珍しげに商品を手に取っては、あれこれとカゴに入れていた。
どっさり買い込むランドセル姿のふたりは目立つのか、終始、店員の視線がまとわりついてきて、居心地のわるさを覚えたのだった。
海苔の破けると音、わきたつ磯の匂い。
彼が食べ始めたのを確認してから、枚田も菓子パンの袋を開けた。
「もう昼か」
中央に建てられた設備時計を見ながら、州がつぶやく。
なわとび大会は3、4時間目に催されたはずだから、すでに終わっているはずだ。
枚田が12時半を指す針を見つめていると、州はやや気まずそうに俯いた。
「よかったの? なわとび……」
よくはない。日々の努力は、州もそばで見ていたから、わかっているだろう。
それよりも、無断欠席してしまったことのほうが問題だ。今頃、大騒ぎになっているだろう。
「だって、州をそのままにしておけないよ」
ごめんという言葉はなかった。彼は謝罪を口にするのが苦手だ。しかし、なわとびの約束を自ら反故にしたことを反省しているのはわかるから、枚田からはそれ以上、なにも言わなかった。
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