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「じゃあたとえば、結婚するとか?」
州の涼しげな目が、木の実のように丸くなる。
予想外の提案だったのか、照れも怒りも浮かんでいない。
枚田からの提案の意図を思慮したのち、迷路にはまってしまったらしい。
「や、法律的にはできても、男同士で結婚する人なんかあまりいないじゃん」
彼は、正面から目を逸らし、あえて意図からずれた回答をした。
枚田はつま先をぶつけたまま、彼の手が膝の上で戸惑うのを見た。
「俺らがαとΩなら変じゃないよ」
「え?」
「この前習ったじゃん。男同士でも赤ちゃんできるって。で、その後しもやんから聞いたんだけど、クラスの佐藤と鈴木の親も、男同士らしいよ」
あの授業中、リアクションが薄い者も何人かいた。
おそらく両親が同性同士だったりして、αとΩに該当するのだろう。彼らからしたら、あの授業の内容はわかりきったことなのかもしれない。
実際、クラスメイトからは噂話程度にそのような情報を2、3ほど聞かされた。
「俺はさ、たぶんαなんだよ」
「なんで? 通知来たの?」
「いや、まだ来てないけど。そうだと思う」
αかΩ、どちらかの性に該当する場合、通知は11歳を迎える3ヶ月前に来るといわれている。
枚田は秋生まれだから、まだ当分先である。
「州は通知来た?」
対し、州は4月生まれだから、もう着ていてもおかしくはない。
本来ならば、こういった類の質問はタブーとされているらしいが、州と枚田の仲だ。それに、枚田には確信があった。
それでも、彼はやや躊躇し、踵を浮かせたりつま先を立てたりして、時間を潰した。
それから、ぽつりと吐いた。
「きたよ」
「Ωでしょ?」
間髪入れずに聞くと、彼は俯いたまま顎を小さく引いて、肯定した。
途端、枚田が無意識に笑ったので、彼はそれを訝しく思ったらしい。露骨に眉を顰めたのが視界に入った。
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