儀式

3/7

422人が本棚に入れています
本棚に追加
/193ページ
「じゃあたとえば、結婚するとか?」 州の涼しげな目が、木の実のように丸くなる。 予想外の提案だったのか、照れも怒りも浮かんでいない。 枚田からの提案の意図を思慮したのち、迷路にはまってしまったらしい。 「や、法律的にはできても、男同士で結婚する人なんかあまりいないじゃん」 彼は、正面から目を逸らし、あえて意図からずれた回答をした。 枚田はつま先をぶつけたまま、彼の手が膝の上で戸惑うのを見た。 「俺らがαとΩなら変じゃないよ」 「え?」 「この前習ったじゃん。男同士でも赤ちゃんできるって。で、その後しもやんから聞いたんだけど、クラスの佐藤と鈴木の親も、男同士らしいよ」 あの授業中、リアクションが薄い者も何人かいた。 おそらく両親が同性同士だったりして、αとΩに該当するのだろう。彼らからしたら、あの授業の内容はわかりきったことなのかもしれない。 実際、クラスメイトからは噂話程度にそのような情報を2、3ほど聞かされた。 「俺はさ、たぶんαなんだよ」 「なんで? 通知来たの?」 「いや、まだ来てないけど。そうだと思う」 αかΩ、どちらかの性に該当する場合、通知は11歳を迎える3ヶ月前に来るといわれている。 枚田は秋生まれだから、まだ当分先である。 「州は通知来た?」 対し、州は4月生まれだから、もう着ていてもおかしくはない。 本来ならば、こういった類の質問はタブーとされているらしいが、州と枚田の仲だ。それに、枚田には確信があった。 それでも、彼はやや躊躇し、踵を浮かせたりつま先を立てたりして、時間を潰した。 それから、ぽつりと吐いた。 「きたよ」 「Ωでしょ?」 間髪入れずに聞くと、彼は俯いたまま顎を小さく引いて、肯定した。 途端、枚田が無意識に笑ったので、彼はそれを訝しく思ったらしい。露骨に眉を顰めたのが視界に入った。
/193ページ

最初のコメントを投稿しよう!

422人が本棚に入れています
本棚に追加