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「やっぱり。絶対にそうだと思った。州がΩで——俺がα」
「なんでそう思ったの?」
「俺、この前……州の膝舐めたでしょ。なんかあの時、自然と引き寄せられたっていうか。気づいたらあんなことしてて」
「無意識だったってこと?」
「たぶん。なんであんなことしちゃったんだろうって考えたんだけど、結局わからなくて。だからこの前の授業でピンと来たんだ。州からはフェロモンが出てるんじゃないかって」
州はさっき枚田が吐き出したのと同じような笑みを浮かべた。
「まさか。だってまだ子どもだよ」
「お互いに早熟なのかもしれないよ。まれに11歳になる前からそういう反応が出ることもあるって、先生言ってたじゃん」
えー、などと言っているが、州に嫌がるそぶりは見られない。それどころか、喜んでいるふしさえある。
その反応を見て、枚田も心が弾んだ。
「俺がαで州がΩなら、全部解決するんだよ」
初めて会った時から抱いていた違和感。
時に疎ましくも結局は愛しく、突然、猛烈に突き上げてくる得体の知れぬ欲望。
それらにすべて、理由がつく。
「解決?」
「俺がなんで州を可愛いとか、触りたいって思ったりするのかについて……」
茶化されたり、馬鹿にされるかと思ったが、州はなにも言わなかった。
ただ、瞳は潤んでいた。
枚田は、彼の保つ火照りのなかに、ふたりの淡い未来を見出した気がした。そしてそれは、同居をしてゲームし放題とかお菓子食べ放題とか、そういう単純なことではなかった。
「Ωとαで結婚することを、番になるって言ってたじゃん。あの後調べたんだけど、番になると発情期がなくなるんだってさ」
10代半ばに迎えた発情期は、10代後半から20代前半にかけてピークに達する。中年期になると徐々に頻度が減り、やがて消滅するらしい。
しかし、思春期や青年期でも、特定の相手と夫婦関係を結ぶと、不特定多数に対して発情することはなくなるそうだ。
「番ってどうやってなんの? 儀式とか言ってたけど」
そこでやっと、州が声を発した。
αとΩは、ある儀式を交わして番となる——教師はそう言っただけで、儀式に関しての具体的な説明はなかった。おそらく、真似する者が出るのを危惧したのだろう。
「なんかね、αがΩの首の後ろを噛むと、その2人は番になるらしい。βにはない、特別な儀式なんだって」
へぇ……
州は感心があるのかないのか、いまいち判別のつかない返答をした。
間があいて、なんとなく手持ち無沙汰になる。
枚田は、菓子の袋でも開けようかと、食材の入ったビニール袋に視線を落としたが、州の一言がそれを制した。
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