裏切り

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式の最中、枚田はずっと泣いていた。 友人代表としてスピーチをした時も、州がお色直しで中座する際、エスコート役として共に会場を出た時も、それから出口で待機していたカメラマンにツーショットを撮られた時も、泣きっぱなしだった。 ゲストは皆、そんな枚田を微笑ましく見ていただろう。州のハレの日を感動の涙で彩る、素晴らしい友人だと——式の前半までは誰しもが、そう思っていたはずだ。 しかし、枚田は素晴らしい友人を演じきれるほど大人ではなかった。 ふたりきりになったわずかなタイミングを狙い、控え室に移動しようとする州の腕を掴んで、トイレに押し込んだ。 「なんだよ」 彼は落ち着き払っている。 まるでこれも想定内だとばかりに———— 「州、自分がなにしてるかわかってる?」 枚田ばかりが、声を震わせていた。 州はいつもそうするように、目を細めながらにやついている。 「お前、顔真っ赤だぞ」 それはもうおなじみの表情で、枚田を困らせて楽しんでいる時に浮かべるものだった。 しかし、今日ばかりは、笑ってすませられる話ではない。 「なんで笑っていられるの」 「マイの顔が面白いから」 「ふざけんなよ」 州は動じない。いや、それどころか恍惚とさえしている。 嫌味なぐらいに白いタキシードは、挑発的な光沢を放ち、枚田を煽り続ける。 憤怒による眩暈で、彼のシルエットが幾重にもなった。 「州には血が通ってないんだな。改めてよくわかった」 「お前は血の気が多すぎなんだよ」 それから枚田の下半身を膝で圧迫した。 「なんでこんなになってんの」 呆れたような声が、首筋を撫でる。 全身の毛穴が開き、肌がざわめく。せめぎ合うさまざまな澱みによって、視界は塗り潰され、感情の土砂に埋まった。
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