422人が本棚に入れています
本棚に追加
/193ページ
式の最中、枚田はずっと泣いていた。
友人代表としてスピーチをした時も、州がお色直しで中座する際、エスコート役として共に会場を出た時も、それから出口で待機していたカメラマンにツーショットを撮られた時も、泣きっぱなしだった。
ゲストは皆、そんな枚田を微笑ましく見ていただろう。州のハレの日を感動の涙で彩る、素晴らしい友人だと——式の前半までは誰しもが、そう思っていたはずだ。
しかし、枚田は素晴らしい友人を演じきれるほど大人ではなかった。
ふたりきりになったわずかなタイミングを狙い、控え室に移動しようとする州の腕を掴んで、トイレに押し込んだ。
「なんだよ」
彼は落ち着き払っている。
まるでこれも想定内だとばかりに————
「州、自分がなにしてるかわかってる?」
枚田ばかりが、声を震わせていた。
州はいつもそうするように、目を細めながらにやついている。
「お前、顔真っ赤だぞ」
それはもうおなじみの表情で、枚田を困らせて楽しんでいる時に浮かべるものだった。
しかし、今日ばかりは、笑ってすませられる話ではない。
「なんで笑っていられるの」
「マイの顔が面白いから」
「ふざけんなよ」
州は動じない。いや、それどころか恍惚とさえしている。
嫌味なぐらいに白いタキシードは、挑発的な光沢を放ち、枚田を煽り続ける。
憤怒による眩暈で、彼のシルエットが幾重にもなった。
「州には血が通ってないんだな。改めてよくわかった」
「お前は血の気が多すぎなんだよ」
それから枚田の下半身を膝で圧迫した。
「なんでこんなになってんの」
呆れたような声が、首筋を撫でる。
全身の毛穴が開き、肌がざわめく。せめぎ合うさまざまな澱みによって、視界は塗り潰され、感情の土砂に埋まった。
最初のコメントを投稿しよう!