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——州の告白は実におぞましかった。
積田はずっと、州の弱味を握る機会を狙っていたのだろう。些細な失敗をだしに、あれこれと言葉巧みに彼に触れる口実を作り出し、また実行したらしい。
州が逃げ出そうとすると、脅迫めいたことを言ったり、羞恥を煽ったりした。
彼からは、たびたび体を触られたり、また、触ることを強要された。
しかし昨日、積田はそこからさらに一歩、踏み込んでこようとしたそうだ。
泣いて恐怖を訴えると、彼はそれを途中でやめて、また別のことを要求してきた。
それに応じなければならない屈辱と、先延ばしにされた行為をいつかまたされるであろう恐怖で、ついに家出を決意したという。
「あいつ、死ねばいいのに」
——枚田を襲うのは、憤りや憎悪、やるせなさだった。
ここまで負の感情で埋め尽くされたのは初めてだ。
また、彼から聞く内容について、具体的に追及することはできなかった。小さな少年の心では、とても受け止めきれなかったのだ。
枚田ですら相当なダメージを負ったのだから、当事者である州の苦痛は計り知れない。
自分はそのとき、何をしていた?
州の不在を楽しんではいなかったか。
束縛の強い友から解放された喜びを、一瞬でも噛み締めてはいなかったか。
打ちのめされそうな思いとともに、州を抱き寄せた。
気づくと枚田の目からも涙が溢れ出し、ふたりで肩を震わせた。
「州、ちゃんと親に言おう」
背中に回された指が、縮こまる。
「俺もそばについてるから」
「言ったら、あいつに仕返しされるかもしれない」
「そんなこと——」
「それに、男なのに男にこんなことされて……恥ずかしいし」
おそらく、口を封じるために、積田からそのようなことを刷り込まれたのだろう。
加害者である積田よりも、被害に遭った自分が悪い——彼の口ぶりからは、そんなニュアンスが感じ取れた。
「恥ずかしいことじゃない。悪いのはぜんぶ積田じゃん」
そんなことを言ったところで、今の彼には響かない。
枚田はなんとかして、彼を納得させようとした。
「それに、もしかしたら積田はαなのかも。男とか女とかじゃなく、Ωのフェロモンに反応して、州に近づいてくるのかもしれない」
「そうなのかな……」
第二の性を持ち出して仮定してみるが、州の表情は晴れない。
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