青い欲望

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青い欲望

瞼を開くと、黒い頭が視界に入って、枚田は慌てて上体を起こした。 部活から帰ってきて夕食を取った後は、どうしても睡魔に勝てない。 シーツの擦れる音で、本に視線を落としていた州がこちらを向いた。 「悪い、寝ちゃってた」 慌ててよだれを拭うと、州は本で顔の下半分を隠しながら笑った。 「白目むいて、ぶさいくな顔だった」 「え、白目?」 州はスマートフォンをこちらに向けて、枚田の眠りこけている写真を見せてきた。 消してと言ったところで、この男が応じてくれるはずもない。 「まあ、真顔も大差ないけど」 小憎らしい言葉を吐かれても、ケラケラと笑われると、怒りも失せてくるから不思議だった。 ——中学に進学しても、州は変わらず毎朝迎えに来た。 意外だったのは、彼が受験をせずに枚田と同じ公立中学校を選択したことだ。 3年生の時から塾通いをしていたから、親は当然、私立中学を受験させるつもりでいたのだろう。 おそらく、あの一件さえなければ、彼にそれ以外の選択肢はなかったはずだ。 州とは別のクラスで、それぞれでそれなりの友人関係を築いていたから、廊下ですれ違っても挨拶をする程度だった。 また、放課後も州は塾、枚田は軟式テニス部の活動に熱中しており、それぞれに忙しかった。 だから、彼との交流は朝の登校時、そして夜の数時間ばかり、互いの部屋を行き来するぐらいだ。 成長し、ほどよい距離感を保つことで、些細な喧嘩が減り、また、彼と過ごすわずかな時間がより特別なものに思えるのだった。 「マイさぁ、俺が来るといつも寝てるよね」 「部活で疲れてんだもん」 「試験期間で部活なくても寝てるじゃん。3年になったんだし、そろそろ勉強しないとやばいんじゃない」 「いいよ。どうせ馬鹿だし頑張ったところで……」 すると、文庫本で叩かれた。 痛くはなかったが、驚きで反射的に声を上げる。
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