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「今週末は塾ないし、観にいこっかな」
「ただの練習試合だよ」
「なんの試合でもいいよ。まだマイの勇姿を見たことないし」
部全体のレベルは大したことないが、その中ではそこそこうまいという自覚はあった。2年の夏以降は、部長としてメンバーを牽引する身でもある。
枚田にとってはテニスが州よりも優れている唯一の分野であり、自信だった。
「テニスしてたら、少しはぶさいくが補正されるかもな」
「ひどいなぁ」
「別にぶさいくが悪いとは言ってないじゃん」
枚田は、ふと窓ガラスに映る自分を見て、そんなにひどいだろうかと思った。
州はそんな枚田を見て愉快そうに笑っている。
肩に乗せていた足を首の後ろに回してくるから、引き寄せられる形で押し倒してしまった。
「嘘だってば」
枚田が機嫌を損ねたと思ったらしい州が訂正してくるが、枚田の全意識はこの州を組み敷くような——いわゆる正常位みたいな体勢に向けられていた。
焦るあまり、しかめ面になってしまったのだった。
枚田の反応が薄いのが気になったのか、彼は足をややずらし、腰に回してきた。
「わっ」
より体が密着し、変な声が出る。
「それほどひどくないって。ちょっとぶさいくなだけだよ」
彼は枚田の腰を足で挟みながら、意図的な力を込めて密着してきた。
「わかったよ。ぶさいくでいいから!」
抵抗による摩擦であっという間に下半身が反応してしまい、州を突き飛ばすようにして離れた。
互いに薄着だし、しっかり肌が触れ合っていたのだ。州にはもろにバレてしまっている。
彼がからかい半分で体を密着させてくることはよくあって、枚田はそのたび、こうして律儀に反応してしまう。
思春期のありあまる欲求を、自力でコントロールすることは不可能だった。
しかし、彼はそれに気づいていながらも、いつものように意地悪く追及してくることはなかった。
むしろ、なぜか安楽たる表情を浮かべる。それがよくわからなかった。
「勝ったらアイスおごってやるよ」
「もし負けたら?」
「マイのおごりな」
寝転んだまま、州が笑う。
この姿や肌の感触、温度を思い出しながら——今日も夜な夜な懊悩に浸ることになるのだろうと、枚田は思うのだった。
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