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「大会も勝てよ」
「どうだろ」
ソフトテニス部の大会は、夏ごろに行われる。今年の3年、2年はそこそこ強いとはいえ、せいぜい地区予選をいくつか勝ち抜けるレベルだ。
「せめて都大会ぐらい行けよ」
「ぐらいって、簡単に言うなぁ……」
そんなやりとりをしながら、カップのアイスが半分ほど減りかけた時だった。
目の前を、ゆっくりと影が過ぎていく。
土埃のついたスニーカーが視界に入って顔を上げると、三上丈太郎が立っていた。
彼は他校の選手で、つい先ほど対戦したばかりの相手だ。ペアを組んでいる福沢共々、柄が悪く、愛想がないことでも有名だ。
彼らと試合をすると、勝っても負けても嫌な思いをするというのが、部内での評判だった。
三上と福沢は、こちらの会釈に反応することなく、コンビニに入っていった。
「なに、あいつら」
それだけでも、州は不快に思ったらしい。
しかし、この程度で事を荒立てる気などなかった。勝者の余裕を見せて、毅然と振る舞えただろう。現に枚田は、そうするつもりでいたのだ。
食べ終えたアイスのカップをゴミ箱に捨てていると、ちょうど彼らがコンビニから出てきた。
背後にぴったりとつかれた時、何かしら嫌な思いをするだろうなと予感し、そっと覚悟をした。
「デート中?」
枚田は、三上から言われたことがピンと来なかった。たぶん、州も同じだろう。
返す言葉も見つからないうちに、三上が新たな挑発をかぶせてくる。
「さっきは、彼女にいいとこ見せられてよかったね」
そこで初めて、州とのことをからかわれているのだと気づいた。
彼とは先ほどから、互いのアイスを味見しあったり、近距離で小突きあったりしていた。それを見られていたのだと思うと、一気に羞恥が込み上げてくる。
しかし、反応してしまったら相手の思う壺だ。
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