予兆

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「州、もう行こう」 枚田は三上を無視して、州に声をかけた。 それから、三上と福沢の間に割って入る。枚田はなんとか通り抜けたが、後ろにいた州は行く手を塞がれてしまった。 あろうことか三上は、乱暴に州の腕を掴んだ。 それから、物珍しげにじろじろと見つめる。 「あれ? 男だったの?」 わざとらしい煽りを受け、州からため息がこぼれた。 いくら綺麗な顔立ちをしているとはいえ、骨格や背格好は男性そのものだ。 それがわざとらしい嫌がらせであり、子どもじみたあてつけであることは間違いない。 「なに、三中の部長ってほもだったの?」 「バカ、ほもとかいうなよ。差別だぞ」 福沢が合いの手を入れて、下品な笑い声が絡み合う。そこまでなら、まだなんとか耐えられた。 しかし、三上はそのさらに一線を越えてきた。彼は州に近づいて、こう言った。 「メスっぽい匂いするもんね、君」 そして、州の首筋に鼻をつけた。鼻をわざとらしく鳴らす仕草に耐えきれなくなって、枚田は衝動的に、彼の肩を掴んで突き飛ばした。 「マイ」 先に発したのは州だった。 駐輪スペースに突っ込み、派手な音を立てながら三上が転んだのを見て、なだめるように二の腕を撫でてくる。次第に枚田は冷静になって、三上のそばに歩み寄った。 手を貸そうと屈むと、三上は、枚田にしか聞こえない、微かな声でつぶやいた。 「子作りはまだなの?」 次の瞬間、差し伸べたはずの手を、三上の頬に打ち付けていた。 三上が低い唸り声を上げる。枚田も、その瞬間だけは冷静な判断ができなかった。 州の声が耳に入ってきたのは、しばらく経ってからだった。 三上の口角は切れて血が出ている。さらに、背後には福沢がスマートフォンをかまえて立っていた。
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