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「テニス部の部長が、他校の生徒に暴力を振るうのはまずくない?」
それから、今の流れをおさえた動画を再生する。
枚田は戦慄した。画面越しに見る我が姿は、まるで自分ではない、獰猛な動物のように見えた。
「はい。三中、大会出場停止〜」
三上がにんまりと微笑む。
枚田は背筋が冷たくなるのを感じた。報告されれば、なんらかの処罰が下るだろう。
まわりに迷惑をかけてしまう——部長である自分が、自らの行動で、今の二年生、それから引退を控えた三年生の最後の希望を摘み取ることになるのだ。
狼狽える枚田を、三上と福沢は愉快そうに眺めていた。
「ちょっと、手を捻ったかも」
利き手をわざとらしく振りながら、三上が腰を上げた。これではまるで当たり屋だ。
毅然と振る舞うべきか、いや、でも————
「お前らに何かした?」
「いま殴ったじゃん」
「それはそっちが喧嘩売ってきたんだろ」
三上と福沢は惚けたように顔を見合わせている。
体を揺らし、へらへらと笑う姿を見ていたら、徐々に腹が立ってきた。
「さっきの試合で負けて、むかついてるのはわかるけど……」
笑っていたふたりが眉をひそめたのを見て、出方を誤ってしまったと思った。
枚田は肝心な時にいつもこうだ。
余計なひと言を放っては、たびたび州を怒らせているというのに。
思いかけて、はっとした。そういえば、先程から州の姿が見当たらない————
視線を泳がせていると、三上がにじり寄ってきて、視界を塞がれた。
「枚田ってさー、うざいってよく言われない?」
それにどうリアクションしようか迷っていると、コンビニから州が出てくるのが見えた。
一体、いつの間に移動していたのだろう。彼はこちらにやってくるなり、三上と福沢めがけて、なにかを投げつけた。
彼らのまわりをひらひらと舞うものは紛れもなく紙幣で、それも一万円札だった。
「お前ら、まるでヤクザだな」
ふたりは州の言葉よりも、地面に落ちた一万円札に気を取られているようだった。
それをいいことに、州は遠慮なく、嫌悪を吐き出した。
「こんなしょうもない絡み方して、みっともないと思わないのかよ。悔しいなら言葉じゃなくて試合でぶつければ」
言うだけ言うと、州は枚田の腕を掴んで踵を返した。
おい、待てよ
背後から声をかけられたが、足早に角を曲がると、もうそれっきり、ついてこなかった。
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