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その日、枚田はたまたま部活動が休みだった。
そうでなければ鉢合うことなどない時間帯だ。三上ははじめから部活動をしていない人間——すなわち、州を待っていたのだろう。
枚田は迷いなく、しかし息を長く吐き、感情的にならないよう努めながら、彼に歩み寄った。
気配に気付いたらしい三上が、微かに目を見開いた。
びっくりというよりはあてが外れたとでもいうような表情だ。
「州なら休みだけど」
言うと、三上は薄っぺらい笑みを浮かべながら、門扉に寄りかかった。
金属の軋む音が、耳をつんざく。
「今日来るねって、言っておいたんだけどな」
三上も三上で、隠すつもりはないらしい。
枚田への当てつけはすでに飽きているのか、そこに挑発めいたものも感じられない。
「何の用? 俺が代わりに伝えとくよ」
「白石君から受け取るものがあるんだよね」
「じゃあ俺が持ってくる。ちょうどこれから州んち寄るからさ。受け取るものってなに?」
下校中の生徒が通過する。他校の制服は目立つのか、一斉に視線が集まって、三上は口をつぐんだ。
枚田は毅然と、圧迫するように言った。
「遠慮しないでいいよ。州の家はすぐ近所だし、ついでだから。で、なに?」
すると、三上の視線が校舎の方へと動いた。渡り廊下の窓から、教師がこちらを伺っている。
やはり、三上は悪目立ちするのだろう。
「そんなに急いでないし、やっぱ今日はいいや」
それだけ言うと、彼は踵を返してしまった。彼も彼で、面倒ごとは避けたいらしい。
三上が角を曲がるのを見届けてから、枚田も反対方向を歩き出した。
息を吐いた途端、額から汗がにじんでくる。堂々と振る舞えたことによる優越感と、一歩遅れてやってきた緊張で、足が震えた。
そして、現実を目の当たりにし、州の身のまわりでなにかよくないことが起こっていることを、認めざるを得なかった。
それに、今朝の州の態度も気になるのだ。
体調がよくないのは本当だろうが、三上との接触については、枚田に関わってほしくなさそうだった。
事が深刻なときほど、彼は枚田を遠ざけ、庇護しようとする。
かつての、積田との時もそうだった。
大丈夫と言い、なんでもないふりをして——
今回もまた、彼から助けてもらった。
だからこそ、今度は自分が、州を守らねばならなかった。
枚田は迷わず、州の家へと向かった。
やはり直接、話をしなくてはいけない。早いうちに対処をして、どうにかボヤで収まる程度にとどめておきたかった。
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