なにかが変わった

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——ふと、気配に気付いたのは、皮肉にもインターフォンを押そうとした時だ。 背後にひと気を感じたが、最初は通行人だとしか思わなかった。近所の住人だろうと、すっかり油断していたのである。 州の家まで来た時、亡霊のようにゆらめく影が大きく伸び、インターフォンに伸ばした枚田の指先を、ワントーン暗くした。 振り返ってまず目についたのは、見覚えのある紺色のスラックスで、枚田は焦りを覚えた。 しまったと思った。 まさか、三上が後をつけてきているとは、思いもよらなかったのだ。 「白石君の家、ここなんだ」 薄い唇が、ひときわ冷徹に映る。 彼の狡猾な笑みを見た瞬間、絶望で視界がぐらりと揺れた。 「なんでいるんだよ」 「白石君、連絡先教えてくんないし、家に来たほうが早いかなって」 枚田は舌打ちをした。 家が近所だなんて、余計なことを言わなければよかった。 いつもこうだ。良かれと思ってしたことで、結果的に州の足を引っ張っている。 「州に何の用なの?」 「それは話せないな。白石君との契約だから」 口外しないことを条件に交渉を進めるそのやり方が、いかにも州らしいと思った。 こちらが黙ったままでいると、三上が覗き込んでくる。 「別に家入んないから。白石君をここに連れてきてくれればいいよ。ちょっと話すだけだし、すぐ済むから」 「州は具合が悪いんだよ」 「じゃあ、連絡先だけ聞いてきて」 枚田は睨みつけて彼を物理的に遠ざけると、インターフォンを押した。 「はい」 応答したのは幸いにも州で、ほっとする。枚田はモニターに近づいて、声をひそめた。 「州、三上が来てる」 「え?」 「俺の後つけてきたみたいで、どうしても州と話がしたいんだって。どういうことなの?」 彼の呼吸はまだ荒く、具合が良くなっていないことは明らかだったが、それでもまずこの状態をなんとかしなくてはならない。 「先に俺に説明してよ」 隙あらば近づいてこようとする三上を視線で蹴散らしながら、さらにモニターに顔を近づける。 すると、やっとインターフォンのマイクが切れて、鍵の回る音がした。 中に入れということだろう。
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