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枚田は室内に入ると、すぐに鍵をかけた。
彼の自宅は2階がリビングになっていて、一階に州と環の自室、両親の寝室がある。
玄関に靴がないから、州以外は不在にしているのだろう。
そういえば環は平日の夕方、塾に通っていると聞いた。彼は受験をして、私立の小学校に進学したため、もうすでに勉学が忙しいらしい。
枚田は州の部屋のドアをノックした。
「入るよ」
開けると、廊下との湿度の差に驚く。
空気が一段重くなったような室内で、州はベッドに横たわり、肩で息をしていた。
「州、大丈夫?」
枚田が隣に腰掛けると、彼はなぜかびっくりしたように壁際に寄った。
目は潤み、頬は赤い。
とろんとした表情に見惚れそうになったが、それどころではないと、目を逸らした。
「あいつ、まだいんの?」
州が言った。吐き出した息は湿気と熱を孕んで重そうだ。やはり体が辛いのだろう。
「うん。連絡先教えるか、家の前まで出てこいって」
「ほんとクズだな」
吐き捨てるような口調だった。
もともと弟である環と枚田以外の人間にあまり興味を示さない彼が、ここまで嫌悪感をむき出しにするのも、ある意味めずらしい。
「州、なにがあったの」
「あの時、金ばら撒いたことに味しめたのか、またゆすってきたんだよ」
ここまでくると、もう誤魔化す気はないらしい。
「ハイエナだな」
州は間をおかずに吐き捨てた。
「渡したの?」
「まさか。きりがないし」
「どうする? やっぱり断ってこようか。あいつ、まだ外にいると思うから……」
州はふたたび、ゆっくりと息を吐いた。
怒りなのか、それとも不調のためなのかはよくわからないが、震えている。
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