なにかが変わった

6/6

424人が本棚に入れています
本棚に追加
/193ページ
「いいよ、呼んできて。家に上げて」 「え、でも」 「また来られても迷惑だし、連絡先も教えたくないから。今日ですっぱり終わらせる」 面倒くさがりな州のことだ。体調不良ということもあり、時間をかけて話し合うつもりはないはずだ。たぶん追加で金を支払う気なのだろう。 誓約書みたいなものを一筆書かせて、二度とくるなと念を押すのかもしれない。 ただ、その事実を、彼は絶対に認めないだろうが——— 「俺もいるよ」 「いいよ。5分で終わらせるから、マイは帰れ」 立ち合わせたくないということはたぶん、枚田の予想通りの展開になるはずだ。そうでもしなければ、あのしつこい三上をあっさりと納得させられるはずがない。 「じゃあ外で待ってる。15分経っても三上が出てこなかったら、また見にくるから。鍵かけないでね」 枚田はそれ以上は食い下がらず、立ち上がった。 振り返り、州の顔を見る。 気怠げで、不謹慎だが色っぽかった。 「マイ」 「ん?」 「俺、なんか匂いする?」 真っ直ぐにこちらを見るものだから、なにを言うのかと思った。 「またそれ? 気にしすぎだよ」 軽く返したものの、州の瞳の奥は動かなかった。静けさを保ちながら、彼の内部でなにかが起きているような——微かなざわめきを受け取り、笑みが緩む。 声をかけようと口を開きかけたが、先に目を逸らされてしまった。 「もういいから、行け」 背を向けられ、言い放たれて、枚田は仕方なしにドアノブを握った。 今のやりとりで、一体なにが変わったというのだろう。 しかし、なにかが変わったことはたしかで、ふたりの間にというよりは、州のなかで生じたことのような気がした。 振り返ろうと思ったが、なんだか怖じ気付いてしまい、枚田は結局、そのまま部屋を出た。
/193ページ

最初のコメントを投稿しよう!

424人が本棚に入れています
本棚に追加