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衝動的にドアを開けると、三上が州に覆いかぶさるかたちで、重なり合っていた。
「州?」
まるでこちらの存在など認識していないかのように、一定のリズムを保ち続けている。
スプリングの軋む音に調和するように、生々しい音が絡み合う。
はっはという息づかい、肌のぶつかる音。その異様さに圧倒されて、枚田はしばらく言葉が出なかった。
「なにしてんだよ!」
間を挟んでようやく我にかえり、枚田は三上の肩を掴んで州から引き剥がそうとした。
しかし、三上は動じない。その目にはなにも映っていないように見えた。ただ取り憑かれたように、州の肌にしがみついている。
「あっ、あっ……」
それは州も同じだった。
まるで意思をどこかに置いてきてしまったかのように無抵抗で、瞳は三上と同じ鈍色をしていた。
荒々しい呼気から漏らす声は単調で、しかしそれがかえって艶っぽくもある。
「州! 州!」
彼は枚田のほうをまるで見なかった。
「邪魔」
州のほうに気を取られていると、突然、三上に突き飛ばされた。枚田はわずかに宙を舞い、床に半身を打ちつけた。
その力の強さにしばらく呆然とし、傾いた視界のなか、貪るように肌を寄せ合うふたりを捉える。
「はぁ、あっ、あっ……」
情欲だけが蔓延し、枚田の正義感は恐怖に押し潰されてしまった。
「どうしたんだよ、州……」
相変わらず、ふたりとも枚田のことなど気にしていなかった。それどころか、肌を合わせている当事者同士ですら、互いが見えていないようだ。それがなんとも奇妙で、寒気がするのだ。
混乱をどうにか折りたたむと、やっと確信した。
2人は今、発情している。いわゆる、αとΩのもつ性衝動————
枚田はゆっくり立ち上がると、部屋の外に出た。
それから、玄関のドアチェーンをかけて、廊下のすみに腰掛ける。
守るだとかそれ以前に、完全に場外であることを思い知らされ、虚しさばかりが降り積もる。
今のふたりとも正気ではない。それはわかっている。
定期的に訪れる州の体調不良は風邪ではなく、発情期によるものであり、なんらかの形で、おそらくαである三上のヒートを引き起こしてしまったのだろう。
しかし、こちらを一切見なかった州の、まるで人形のような顔を思い出すたび、打ちのめされそうになった。
それに、三上のあの力——いわゆる、ヒート状態だからなのだろうか。尋常ではなかった。あの腕で押さえ込まれたら、誰だって太刀打ちできない。
枚田はうつむき、ベッドの軋む規則的なリズムを拾った。
それは無限にも思えるほどに繰り返された。
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