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——時計を見ると、実に1時間が経過していた。
規則的なリズムが乱れ、州の声に喘ぎ以外のものが混ざり始めたのは、ちょうど時計を見てからさらに10分ほど経ったころだろうか。
「……ろ……」
しきりに、なにかを繰り返している。
そこに意思があるのを悟り、枚田は立ち上がった。
ドアノブを握ると、呂律が回らないが明確に「やめろ」と言っているのがわかり、ためらわず入室する。
うつ伏せにされた州が、うなじを手のひらに当てて抵抗している。三上はその手に噛みつき、引き剥がそうとしていた。
彼がうなじを噛もうとしているのだとわかり、枚田は躊躇なく背後から蹴りつけた。
たとえ自分が死んでも、州のことは守らねばならないと思った。
「……っ」
不意打ちを喰らった三上が、体勢を崩してベッド下に落ちる。その隙に州の体を引き寄せ、抱きしめた。
三上の目はまだ虚ろだが、州のほうはだいぶ正気を取り戻しているようで、瞳が不安定に揺らいでいる。
それを見て枚田は、やっと本当の州を取り戻したような気になった。
枚田は三上に向けてカメラを起動すると、言葉を発した。
「何したかわかってる?」
三上は答えない。しかし、彼も先程よりは冷静さを取り戻しているかのように見えた。
「今後、州に近づいたら、お前のしたこと全部バラすから」
それからシャッターで彼の姿を連写する。
三上はなにも発しないまま、立ち上がった。また彼自身も、予期せぬ性衝動にショックを受けているようだった。
その、まるで被害者めいた態度に苛立ちを覚えたが、同時に、もう彼が接触してくることはないだろうと、なんとなく悟った。
「さっきの一部始終、録音もしてあるから」
三上が部屋を出て、更に外へと出たのを音で確認すると、枚田はようやく、腕に収まったままの州に視線を落とした。
州の受けたショックも、相当だった。
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