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ルビーとパール
「マイにしか頼めないんだよ」
環のこぼれ落ちそうな瞳に圧倒されて、枚田は思わず目を伏せた。
背格好や雰囲気はよく似ているが、顔は兄である州よりもこっくりと、甘いつくりをしている。
宝石のようだともてはやされるふたりだが、州がパールに、そして彼がルビーに例えられるのはよくわかる。
その愛らしい表面の内には、力強さや、どこか暗赤色を思わせる雰囲気を秘めているからだ。
そして今日も、久々に再開したかと思えば、失踪した州を連れ戻してほしいなどという要望を押し付けてきた。
一度押しつけた面倒は、回収する気はないらしい。
目力で枚田を制圧すると、長いまつ毛を瞬かせながらストローを口に含んだ。
「何で俺が……」
なんでって言われても。
赤い唇がかすかに動き、水でふやけて楕円形につぶれた紙ストローが解放された。
「州ちゃんの家出の原因が、今回のマイの結婚にあることは間違いないからね」
「だから、なんでそう言い切れるんだよ」
「昔からそうだよ。州ちゃんがいなくなる時は、絶対にマイが絡んでる」
「そんなこと……」
それならば、なんで。
枚田は続きを飲み込むと、震える喉仏を掌で押さえた。
いつの間にかほつれ、ほころび、ぷつりと切れた記憶。そのかけらを声に出そうとすると、粘膜は痺れ、身震いがするのだった。
——白石州は、小学生の時からの幼なじみだった。
彼とは長い間、友情のような主従関係のような、不思議な関係を築いてきたが、大学生の間だけ共同生活を通じて恋愛もどきに発展した。
卒業し、枚田が名古屋の企業に就職したことを機に、なかなか会うことができなくなったが、それでも枚田の気持ちに変わりはなかった。
枚田にとって、それはもどきなどではなかったのだ。
ところがある日——彼は突然「結婚するから」と宣言して、枚田をあっさりと捨てた。
あろうことかその式に枚田を招待し、友人代表としてスピーチまでさせ、祝福させたのだった。
こちらが泣き、傷つく様をあてにシャンパンを煽りながら———
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