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「大丈夫?」
見てわかることだが、それでも口にせずにはいられなかった。
案の定、州は答えない。
「あのさ、今のって、もしかして……」
その先は言わなくてもわかるのだろう。州は軽く頷くと、膝を抱えて身を丸めた。
「三上が部屋に入ってきた瞬間、お互いにおかしくなって——気づいたら、あんなことになってた」
「なんで? 抑制剤打ってるんだよね」
州は俯き、首を左右に振った。
「俺は打ってない。過去にアナフィラキシー起こしたことがあるから、飲み薬でコントロールしてる」
「でも、服用してるなら……」
「薬って、発情期が来る直前から飲み始めないと効かなんだよ。俺、そのサイクルが不順だから、飲むタイミングが難しくて。タイミング逃すと、今みたいに発情した状態になっちゃうの」
州がたびたび休むのも、そういう理由なのだろう。一般的に、発情期は1週間ぐらい続くという。
「でも、三上が抑制剤打ってるなら、あんなことにならないよね。あいつも打ってないってこと?」
「わからない。もしかすると俺みたいに飲み薬でコントロールしてるのかもしれないし、抑制剤が効きにくい体質なのかも」
「効きにくい? そんなのあるの?」
「あると思う。あとは、俺の——」
そこまで言って、州は口をつぐんだ。
「俺の?」
続きを催促すると、彼は少し声のトーンを落とした。
「フェロモン、みたいなやつが……人より強いんだと思う」
「そんな……」
言いかけて、ふと思い出した。
コンビニで出会した時から、三上は彼のことを「メスっぽい匂いがする」と言っていた。
てっきり容姿を揶揄っているのかと思ったが、もしかしたらフェロモンを嗅ぎ取ったのかもしれない。
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