たかがα

4/8
前へ
/193ページ
次へ
「大丈夫?」 見てわかることだが、それでも口にせずにはいられなかった。 案の定、州は答えない。 「あのさ、今のって、もしかして……」 その先は言わなくてもわかるのだろう。州は軽く頷くと、膝を抱えて身を丸めた。 「三上が部屋に入ってきた瞬間、お互いにおかしくなって——気づいたら、あんなことになってた」 「なんで? 抑制剤打ってるんだよね」 州は俯き、首を左右に振った。 「俺は打ってない。過去にアナフィラキシー起こしたことがあるから、飲み薬でコントロールしてる」 「でも、服用してるなら……」 「薬って、発情期が来る直前から飲み始めないと効かなんだよ。俺、そのサイクルが不順だから、飲むタイミングが難しくて。タイミング逃すと、今みたいに発情した状態になっちゃうの」 州がたびたび休むのも、そういう理由なのだろう。一般的に、発情期は1週間ぐらい続くという。 「でも、三上が抑制剤打ってるなら、あんなことにならないよね。あいつも打ってないってこと?」 「わからない。もしかすると俺みたいに飲み薬でコントロールしてるのかもしれないし、抑制剤が効きにくい体質なのかも」 「効きにくい? そんなのあるの?」 「あると思う。あとは、俺の——」 そこまで言って、州は口をつぐんだ。 「俺の?」 続きを催促すると、彼は少し声のトーンを落とした。 「フェロモン、みたいなやつが……人より強いんだと思う」 「そんな……」 言いかけて、ふと思い出した。 コンビニで出会した時から、三上は彼のことを「メスっぽい匂いがする」と言っていた。 てっきり容姿を揶揄っているのかと思ったが、もしかしたらフェロモンを嗅ぎ取ったのかもしれない。
/193ページ

最初のコメントを投稿しよう!

427人が本棚に入れています
本棚に追加