たかがα

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「うちはお母さんもΩで、同じような体質だったらしくて。お父さんと番になるまでは苦労したらしい。だから、俺のこともめちゃくちゃ心配しててさ……」 「そうなんだ……」 一方、父親と環はαらしい。 環はまだ通知が来る年齢には達していないが、赤ん坊のころに手術をしたことがあり、早くから判明していたそうだ。 フェロモンが強いこともあり、発情期間中、州は部屋に隔離されるのだという。 一般的に、血縁者同士で発情はしないと言われているが、万が一のためということらしい。 「マイは、なにも感じない?」 突然、彼が言った。 そこには、彼なりの思い切りが乗っかっていた。 枚田は言うのを躊躇った。彼との漠然とした未来が、それを口にした途端、崩れ落ちてしまう気がしたからだ。 しかし、事実を言わないのも酷だ。 意を決して聞いてきた彼を、欺くことなどできなかった。 「うん。俺にはわからない」 州の目が微かに見開かれる。それを見ただけで、枚田は続きを言う前に唇が麻痺してしまいそうだった。 「俺はβだから」 なんとか言葉にしたものの、口角がひりひりと痛んだ。 州は今、どんな顔をしているのだろう。 彼の目にピントを合わせることができない。 「ごめん、俺……なにもできなくて」 彼を胸に引き寄せたのは、どちらかというと顔を見たくなかったからだった。
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