たかがα

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——自分の性について知ったのは、州との家出から一年後のことだ。 いくら待っても通知が来ず、親に尋ねてみると「両親ともにβだから、松造もβに間違いない」とあっさり言われた。 その真実を州にはなんとなく言えないまま、ここまで来てしまったのだ。 「俺になにかできることある?」 すると、胸元から小さな要求が返ってきた。 「アフターピルが、リビングの薬箱に入ってるはずだから……取ってきてほしい」 聞き慣れない単語に、鼓動が速くなる。 βである枚田にとっては、妊娠などまるで他人事だが、州は違うのだ。 「うん。待ってて」 枚田は彼の指示通り、2階にあるリビングのチェストを漁った。 Ω用と記載されたアフターピルは、薬箱の奥底に、まるでお守りのように仕舞われていた。 きっと、万が一のために母親が用意しておいたのだろう。それを使わざるを得ない状況を招いてしまったことに、胸が痛む。 枚田は箱と水を持って部屋に戻り、説明書を熟読した。 「性交後、72時間以内に一錠服用すれば、女性で95%、男性で85%程度、妊娠を防ぐことができますって書いてあるよ」 水と錠剤を差し出すと、州は早々に受け取って服用したが、表情は曇ったままだった。 「同じΩなのに、なんで男のほうが避妊率が低いんだろう」 「それは——俺もよくわからないけど」 「15%は妊娠する可能性があるってことか……」 声が震えている。気丈に振る舞おうとはしているものの、不安に押しつぶされてしまいそうなのだろう。 「きっと大丈夫だよ……」 枚田は、気休めにもならない言葉を吐いてはみたが、その後が続かなかった。 それからもう一度、彼の隣に座ると、腕を取って引き寄せた。 「州、俺に掴まって膝立てて」 「なんで?」 「中の、かき出すから」 州は言われるがままにポーズを取りかけたが、枚田の言葉に怯えたのか、腰を引いた。 「いいよ、そんなの……」 「出した方が、安心材料にはなるでしょ」 腰を掴んで引き寄せると、彼はもう抵抗しなかった。 枚田は恐る恐る、指を腿から臀部へとそわせ、未だかつて触れたことのない場所へと忍ばせた。 「痛かったら言って」 初めて知る感触だった。柔らかい州の体は、いとも簡単に枚田の指を飲み込んでしまう。その熱さや締めつけに戸惑い、実際に体を繋げたら、溶かされ融合してしまうのではないかとさえ思う。 これが、発情期のΩの体————
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