ある冬の朝

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ある冬の朝

州がいなくなった。 インターフォンのモニターに、環が映り込んでいる時点で嫌な予感はしていた。 ある冬の朝、彼は二度目の家出をした。 冬休みに入り、受験に向けて最後の追い込みをかける時期で、その日は、枚田も塾の冬期講習が入っていた。 それは州も同じなはずだ。 彼は難関校を志望しており、勉強量は偏差値の低い公立高校を受験する枚田とは比べものにならない。一日勉強をさぼったらどうなるかは、彼自身がよくわかっているはずだ。 「昨日までは普通だったんだよ。でも今朝、部屋に行ったらいなくなってて。俺宛にメッセージがきてた。家出しますって……」 環は、黒いピーコートのポケットに手を突っ込み、寒さのあまり背を丸めた。 ——かわいそうなことに、今日は登校日らしい。 白い膝が、ショート丈のスラックスと、紺のハイソックスの境界線かのように、くっきりと映えている。 有名なデザイナーが手掛けたらしい制服だが、真冬のこの時期に足を出させるデザインは酷だ。 「それ知って、お母さんがパニックになっちゃって。高校入試が控えてるし、州ちゃんのことはその、色々——心配してるからさ」 ——州は中学受験をしなかった。 何せ積田とあんなことがあった後だ。彼の心情を汲み取り、一旦はその希望を受け入れた母親だったが、高校からは何としてでも有名校に入れたかったのだろう。 州は中学受験こそしなかったものの、目標が高校受験にすり替わっただけで、塾通いは継続していた。 母親からしたら、今度こそはというタイミングでの遁走だ。それも周期の不安定であるΩの彼が家出なんてしたら、どんな目に遭うかわからない。気もおかしくなるだろう。
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