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最初はたまたまだと思った。虫の居所の悪い日が続いているだけなのだろうと。
しかし、いつのまにか彼が枚田の家に来ることは少なくなり、メッセージの返事も徐々に遅くなっていった時——そこに明確な意思があるのだとわかったのだ。
理由を確かめようとしたが、はっきりさせるのが怖くもあった。
そうこうしているうちに、気軽に行きにくくなってしまったのである。
「州ちゃんがマイを嫌うわけないじゃん」
環はきっぱりとそう言った。
「そうだといいけど……」
にぶい相槌を打ちながら、枚田は頷いた。
彼のいうように、たぶん嫌われているわけではないのだろう。
ただ州は、強い不満を抱いている。
それを自分たちで——つまり人為的に解消するなんてことは不可能だから、なおのこと拗らせているのだ。
「たぶん、マイに探しに来て欲しいんだと思う」
「うーん、どうだろう……」
「前の家出のときもそうだったじゃん。またマイに話したいことがあるのかも」
言われて、心臓が嫌な音を立てた。
以前とは違い、大いに心当たりがあるからだった。
「マイ、お願い」
環は、こぼれ落ちそうな瞳で見上げてくる。思わず両手を受け皿にして差し出してしまいそうなくらいだ。
「州ちゃんには、マイしかいないんだよ」
その眼差しが半ば戦略じみていることには気づいていたが、正面から来られたら、はまるほかない。
「わかったよ……」
州に対してもそうだが、環にもめっぽう弱い自覚はあった。
だが、それも仕方のないことだ。彼らは宝石なのだから。
「ほんとに?」
「うん。これから探しに行くから」
——冬季講習初日からサボったら、後で親からうるさく言われるだろう。
枚田がため息をつくと、環の口角が上がった。
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