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——結局、3件目に訪れた町外れの小さなゲームセンターで、ようやく州を見つけた。
彼はメダルゲームの前に座り、機械的にメダルを投入していた。
押し板によってメダルが落とされる、定番のプッシャーメダルゲームだ。
別に絡まれも襲われもしていなかった。実に退屈そうに、貴重な時間を消費していただけだった。
枚田は声をかけず、州の座っている長椅子の隣に黙って腰掛けた。
ガラスに反射した姿でこちらには気づいていたようだが、リアクションはない。
まるで、電車で隣に座ってきたサラリーマンに対するような、他人行儀な知らんふりを決め込んだままだった。
「探したよ」
焦れてしまい、こちらから先に口を開くが、彼はやはり、なにも言わなかった。
声を張ったから、騒音に溶けてしまったわけでもないだろう。
その態度に腹が立って、肩に手をかけた。
そこで初めて、彼の目が戸惑ったように揺れた。
「この時期になに考えてんの」
州はなにも言わない。手に持っていたメダルを投入口に叩きつけながら、我が身にぶつけられた怒りを、完全に持て余していた。
「さっきの電話だって応答がないから、俺——」
思わず言葉を詰まらせると、メダルを叩きつける手が止まった。
彼は動作を止めて、続きを待っている。
「州がまた、変な奴になにかされたんじゃないかって……」
言い切ると、彼は笑みを浮かべながら、ふたたびメダルを投入口に差し込んだ。
投入されたメダルはいくつかのメダルに重なるようにして落ち、マシンに何の影響も与えなかった。
「州、帰ろう?」
「ひとりで帰れば」
ようやく、州が発言する。
その声は低く、掠れていた。もしかしたら、今日はじめて声を発したのかもしれない。
「環もお母さんも心配してるよ。それに、冬期講習だって————」
「行かない」
「行かないって、受験近いのにどうするんだよ」
「受験なんてしない」
大袈裟にため息を吐いてはみたが、騒音にかき消されてしまった。
それから、州の青白い横顔を見て、ふと不安に駆られる。不貞腐れているのではなく、なにかを諦めたようなその表情にだ。
これは大変だと思った。
この場でなだめてなんとかなる状況ではない——それを察知したのだった。
同時に、覚悟も固める。
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