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「州、最近どうしたの」
「別にどうもしない」
「俺、なにかした? したなら、お願いだから謝らせて」
州がこちらを見る。
モニターに映るカラフルなルーレットの光が、彼の白い頬をスクリーンにして、さまざまな色に染めた。
彼は数秒、こちらを見つめていたが、やがて俯いた。
「……同じ高校受けるって言ってたくせに」
ようやく一言、吐き出したが、彼が本当に不満に思っていることは、また別にあるに違いない。
それでも、真実への糸口には違いないと、枚田は彼の顔を覗き込んだ。
「ごめんね。先生に相談はしたんだけど、俺の成績じゃ無理だって」
「お前が勉強しないからだろ」
「うん。ごめん」
やがて、無表情の底に沈んでいた不機嫌が、剥離して浮き上がってくる。
それにやや安心して、彼との隙間を物理的に詰めた。州の腰に手を回そうかと迷ったが、結局は長椅子の座面に手をついた。
「俺、高校で勉強頑張るから。大学は同じところに行こう?」
「お前の志望校から? 行けたら奇跡だな」
彼は皮肉な笑みを浮かべながら、カップをカウンターに置いた。
カップの半分ぐらいの高さを埋めたメダルが、重みのある音を立てる。
「でも、可能性は0じゃないでしょ。州が進学してくれないなら、それも実現できなくなっちゃうし」
「そうやって、適当なこと言ってこの場を収めようとしてるんだろ」
「違うよ。俺は本気で————」
怯みから、最後まで発することができなかった。
州は立ち上がると、カップを枚田に押しつけて椅子を跨いだ。
人をかき分けて、出て行ってしまう。
枚田はカップをその場に置いたまま、後を追った。
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