かなしい吐息

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「州!」 名前を呼んでも、彼は立ち止まらない。 ようやく追いつき、腕を掴んだ。 「俺、適当なこと言ってるわけじゃないよ」 なんとか説得しようとしたことは事実だが、まるで無責任というわけではない。 腕は振り払われたものの、一応、立ち止まってはくれた。 「どうだか。マイは嘘つきだからな」 嘘つき。 その言葉に、彼の不満の真相がすべて押し込まれている。 とうに気づいてはいたが、改めて言われると、猛烈に戸惑った。 しかし、はぐらかしたところで彼は納得しないだろう。 決意が、白いかたまりとなって吐き出された。 「ごめん。βだってこと、ちゃんと言ってなくて——」 州は振り返らなかったが、その肩が荒々しく上下するのを見て、胸が締めつけられた。 どうにかできるならば、なにかを犠牲にしてでもしていただろう。 「ずっと言うのが怖かった。言ったら、州との関係が変わっちゃう気がして」 瞬間、州が振り返った。彼の眼光は鋭く、空気さえ切り裂きそうだった。 「だからって、なにも言わなかったわけ? ずっとαのふりしてたのか?」 胸を突かれて、一歩後退する。 また歩み寄ると、今度は腕を突かれた。 「離せって」 それでも負けじと彼に近づき、体を引き寄せた。力では勝っていたから、彼を擁することは容易かった。 「州、なにも変わってないよ」 言うと、彼の抵抗がやや弱まった。 「俺がβでも。州と俺は、なにも変わらない。これからもずっと……」 彼はなにも言わない。 しかし、冬の冷たい空気に混ざり込んだ悲しげな吐息が、枚田の鼓膜をいつまでも震わせるのだった。
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