きみのすべてに

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「なにやってんだよ」 枚田はテーブルに手を伸ばし、慌ててティッシュを抜き取った。綺麗に揃えられた両脚の、右側を拭く。まず膝頭を、それから液体が伝った内腿へと移動する。 足の付け根近くまで垂れてしまっているらしい。やや躊躇ったが、裾の下をくぐって、そのさらに奥を拭った。 ふと顔を上げると、州のつるりとした顎が目先にあって、枚田は上体を反らした。 少し体を倒せば唇がぶつかってしまいそうな距離から、彼は枚田を見下ろしていた。 「ベタベタだよ。おしぼり貰ってきたほうが——」 言葉はたちまち、州の美しさに吸収されていく。 下から見上げた時の彼の顔が、枚田はいちばん好きだった。 長いまつ毛が扇のように優雅に上下し、ちいさな小鼻や、尖った上唇、それらによって形成された陰影。 それから、蔑みのような、欲情のような——伏し目の奥に灯るものを感じ取るうちに、理性がぐらついていく。 侮辱されてもいい。 プライドはあっさりと崩壊し、彼に誘導されるがままに、思惑にはまってしまうのだった。 枚田は、ティッシュを放ると、まだ池の水抜きをしていない左脚にふれた。 撫でてみて、彼に抵抗する気がないことを悟ると、膝頭に唇をあてた。 州は一瞬、身を引いたが、感触に驚いただけで、嫌悪によるものではなさそうだった。 「汚い」 州が声を発したのは、枚田が彼の膝頭に舌を滑らせ、甘い蜜を吸っているときだった。 膝に溜まったカルピスのことを指しているのか、それとも肌を這う舌のことを言っているのか——不安が頭をよぎったが、迷っているうちに後頭部を撫でられて、どうでも良くなってしまった。 「マイって、αでもないのに何で男の俺に触りたいの?」 意地悪く言いながらも、頭を撫でる指先は優しくて、混乱しそうになる。 彼から許されるままに、その膝頭から腿にまで舌を滑らせ、甘い軌跡をたどる。 「州が煽るからじゃん」 「でも別に舐めろなんて言ってないよ。変態なの?」 「違う……」 屈辱のあまり、顔が熱くなる。しかし、いざ顔を離そうとすると、それを許さないとばかりに後頭部を押された。 言葉や手のひらで煽られ、唇にその白い肌を押しつけられているうちに、枚田はとうとう後戻りができないぐらいに昂ってしまった。 彼の足首にその証拠を押しつけると、動揺ではなく、小さな笑い声が耳たぶあたりをなぞった。
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