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「なんか足に当たってんだけど」
とぼけているが、彼はとうに気づいているはずだ。
彼に少し触れられただけでこうなってしまうこと。フェロモンなんかではない、彼のにおいや肌で、枚田の理性がたちまち鈍くなってしまうことを。
「州、お願い。触って」
「は? やだよ」
ようやく絞り出した懇願も、即切り捨てられる。
しかし、その潔さは痛みを伴わず、むしろ開き直るほうへと導いてくれた。
「こんなにしたのは州だろ」
「俺はなにもしてない。つかなんでそんな興奮してんの? やっぱりゴリラなの?」
「人間だけど! 興奮するよ……当たり前じゃん」
「へぇ、どこに?」
枚田はたまらず、彼を押し倒した。
ボルドーのクッションマットに垂らされた彼の髪の艶やかさに見惚れる。
それから、自分のなさけない表情を隠すように、彼の首元に顔を埋めた。
「州の全部に、興奮しちゃうんだよ……」
鎖骨に顎を当てると、さすがに驚いたのか、体に力が入った。
首筋に鼻をつけて、耳の裏からうなじを嗅ぐ。やはり金木犀のような、酸味の一切ない甘い香りがした。
「さわって……」
「嫌だよ。手が汚れる」
「州」
腿に擦り付けて懇願してみるが、彼は薄ら笑いを浮かべるばかりだ。
そこにあるのは、決して恐怖や嫌悪ではない。むしろ州自身もこの状況を楽しみ、密かに興奮してさえいる。枚田にはそれがわかっていた。
「したいなら自分ですれば」
州は腕組みをしたまま横たわり、視線のみを枚田の猛ったそこに集中させた。
拒絶も加勢もしないが、その情けない姿を見届けるぐらいのことはしてやる——つまりは、そういうことらしい。
「州……」
「はい、どうぞ」
一切ふれられていないのに、全身が痺れ、あらゆる機能が鈍磨になっていく。
彼の視線は、枚田をいちいち疼かせる。
未成熟だった小学生のときから、ずっとそうだった。
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