欲張り

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欲張り

「寝てないの?」 唇も顎もなにもかもが小さいので、まるで猫のあくびのようだと、枚田は言いながら思った。 「遅くまで勉強してたから」 「え、まだ試験前じゃないのに?」 「お前のとことは違うんだよ」 州のひと言に、枚田は何も言えなくなった。 オリーブグリーンのブレザー。その胸元についたゴールドのエンブレムは、彼の顔が小さいせいか、だいぶ大ぶりに見える。 襟元で光っているのは、津田高校の校章だ。 彼にしばし見惚れたあと、自分の着ているブレザーを見下ろして、ため息がこぼれた。 紺の上下に梅干しのような赤のネクタイ。中学の時と大差ないつまらないデザインだし、己の地味さに拍車をかけているようで嫌だった。 「1年の間はのんびりできると思ってたけど、そうでもないなー」 下瞼にはうっすらと青みがかり、全体の肌のトーンも、より白くなった。最近の彼は、白いというよりも半透明に近いとすら思う。 ——今年の春、ふたりはそれぞれ志望校に進学した。 州の通う津田高校が進学校であることは知っていたが、まさかここまで勉学が忙しいとは思ってもみなかった。 小テストや課題が多く、日々の予習も欠かせないらしい。進学してからというもの、彼とはまだ、朝こうして登校する以外のことをできていなかった。 「帰りに待ち合わせて遊ぶ約束、いつ実現できるの」 「さぁな」 返事すら面倒そうな彼を見て、枚田はため息をついた。 「州、そんなんじゃ青春が終わっちゃうよ」 「いいよ別に。そんなもんなくて」 駅のホームで電車を待つ間、少し離れた場所から視線を感じて、枚田は振り返った。 女の子の二人組がこちらを見ているが、もちろん枚田のほうには注がれていない。 彼女らのような、遠慮のない視線を寄越す人間はほかにもいて、それは必ずしも異性ではなかった。 視線とひそひそ話にえらく機嫌を損ねたらしい州は、大きな舌打ちをしてそれら一切を封じた。
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