欲張り

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——彼女たちからの干渉は、乗り換えの駅に着くまで続いた。 その居心地のわるさから逃れるように、足早にホームに降り立つ。人混みに押されながら階段を登り、改札までくると、彼女らが近づいてきた。 「あの……」 そのうちのひとりが前に立ち、進路を塞いだ。彼女達のつま先は、州ではなく、間違いなく自分に向けられている。 わけもわからず、改札間近の通路の真ん中で、枚田は固まった。その脇を、人々が迷惑そうな顔ですり抜けていく。 「友達になってくれませんか」 ロングヘアの女性に促される形で、ショートヘアの女性が発した。やはり、声をかけられたのは枚田のほうだ。 枚田は念のため背後を見回してから、自分自身を指差す。 「え、俺?」 発した途端、彼女が笑い出す。一見大人しそうだが、笑うと可愛いらしい子だと思った。 「あ、はい。あの、毎朝電車で見かけて、かっこいいなと思ってて……」 「あ、そうなんですか」 「あ、彼女とかいたりしますか?」 「あ、いないです……」 つられて敬語になってしまう。こんなことは生まれて初めてで、どう対応していいかわからない。 彼女につられて緊張し、手のひらが汗ばんだ。 冒頭に「あ、」を多用したぎこちないやりとりを、背後で聞いているであろう州に笑われるかと思いきや、そんなことはなかった。 照れや気まずさなどから、彼と視線を合わせられないままだったが、黙って様子を伺っているのは気配でわかる。 それがなんだか不気味でもあった。 「あ、なにかSNSやってますか。アカウントとか……」 「あ、はい。あんま投稿してないけど、一応は……」 教えろということだろうか。次のアクションの正解がわからず、聞かれたことだけにしか返答できない。 もたついているふたりに痺れを切らしたのか、付き添っていた彼女の友人が割って入ってきた。 「じゃあみんなで教え合おうよ」 友人からの救いの一言に、彼女の目の色が明るくなった。 枚田は改めて、州の方を見た。 彼は無表情だったが、自分に会話をふられたことを察すると、腕組みを解き、ポケットをまさぐった。 「別にいいよ」 予想外の反応だった。 州の素直な応答に戸惑いながらも、確認する時間はない。 その場で慌ただしく交換のやりとりをして、彼ともそのまま駅で別れた。
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