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それから彼の家の裏側に回り、1階にある州の部屋の窓を遠目から眺めた。
不安定に揺れるウッドブラインドの隙間から、彼らふたりが抱き合っているのが見える。
ブラインドが開いているのは、きっとわざとだ。わざわざ窓際で重なり合うのも、きっと——
州がスカートの中に手を入れた時、彼女は少し戸惑いを見せた。しかし、抱き合ってしばらくすると、了承したように何度か頷き、それから彼をきつく抱きしめた。
それから州は、ブラインドを閉じた。
ブラインドがたわみ、彼らに圧迫されて膨らみ、派手に揺れる。
それからすっと、窓辺から気配が遠のいた。
踵を返し、歩き始めるが、足裏の感触がまるでなかった。
なぜだろう。
早稲田萌のことを「あのひと」と呼ぶ州の声は冷たかった。
彼は青春などいらないと言っていた。
今朝だって、早稲田萌のわの字すら口にしなかったのに。
今取り巻くのが、なんの怒りなのか、後悔なのか——枚田にはわからない。
熱い憤怒でも、薄暗い哀しみでもない。
冴えないブレザーを脱ぎ、腕にかける。
初夏の日差しがこれほどまでにわずらわしい日はなかった。
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