ルビーとパール

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「振ったとしても、マイと別れるつもりなんかないんだって」 「どういうこと? 同じじゃん」 「同じじゃないよ。長い付き合いなんだから、言いたいことはわかるでしょ?」 つまり、恋人としては終わったが——そもそも始まっていたかどうかも怪しいが——世話は焼いてくれということだろうか。 枚田はため息を殴り捨てた。 もともとソウルメイトとはいいがたい関係だ。枚田なんかよりも、弟である環のほうが、よっぽど州と対等だといえる。 「お願い。マイじゃないとだめなんだよ」 それでも環から懇願されると、助走をつけ始めていた拒絶は、その場でうずくまってしまう。 枚田は、テーブルに放っていたスマートフォンを手に取り、メッセージアプリを開いた。 トップに表示されている履歴は、婚約者である蓮井(はすい)映水(えみ)とのやりとりだ。 何度もスクロールし、州とのメッセージ履歴を探るが、振られた後にすべて削除したことを思い出した。 ふたたびトップに戻り、州のアカウントを探す。 ニューヨーク州の州旗のアイコンは、まぎれもなく彼のアカウントだ。名前にちなんで、なんとなくメジャーな州のものを採用したと言っていた。 かつてはこのアイコンがポップアップされると、嬉しかったものだ。 しばらく画面に注視していると、まるで不穏を察知したかのごとく、映水からの新着メッセージが食い込んできた。 今帰ってきたー! もう家? 枚田はホームボタンを押して一切をシャットアウトすると、画面を伏せる形でスマートフォンをテーブルに置いた。 アイスコーヒーの入ったグラスは水滴まみれで、指でつまむようにして持ち上げると、強い意志を持って手の中からすり抜けた。 「大丈夫?」 テーブルに、黒い水溜りが広がっていく。 卓上から伝った細い糸が、デニムに染みをつくる。 枚田は環の、綺麗なままの衣服を見て安堵すると、店員を呼ぶために片手を上げた。
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