422人が本棚に入れています
本棚に追加
/193ページ
「振ったとしても、マイと別れるつもりなんかないんだって」
「どういうこと? 同じじゃん」
「同じじゃないよ。長い付き合いなんだから、言いたいことはわかるでしょ?」
つまり、恋人としては終わったが——そもそも始まっていたかどうかも怪しいが——世話は焼いてくれということだろうか。
枚田はため息を殴り捨てた。
もともとソウルメイトとはいいがたい関係だ。枚田なんかよりも、弟である環のほうが、よっぽど州と対等だといえる。
「お願い。マイじゃないとだめなんだよ」
それでも環から懇願されると、助走をつけ始めていた拒絶は、その場でうずくまってしまう。
枚田は、テーブルに放っていたスマートフォンを手に取り、メッセージアプリを開いた。
トップに表示されている履歴は、婚約者である蓮井映水とのやりとりだ。
何度もスクロールし、州とのメッセージ履歴を探るが、振られた後にすべて削除したことを思い出した。
ふたたびトップに戻り、州のアカウントを探す。
ニューヨーク州の州旗のアイコンは、まぎれもなく彼のアカウントだ。名前にちなんで、なんとなくメジャーな州のものを採用したと言っていた。
かつてはこのアイコンがポップアップされると、嬉しかったものだ。
しばらく画面に注視していると、まるで不穏を察知したかのごとく、映水からの新着メッセージが食い込んできた。
今帰ってきたー! もう家?
枚田はホームボタンを押して一切をシャットアウトすると、画面を伏せる形でスマートフォンをテーブルに置いた。
アイスコーヒーの入ったグラスは水滴まみれで、指でつまむようにして持ち上げると、強い意志を持って手の中からすり抜けた。
「大丈夫?」
テーブルに、黒い水溜りが広がっていく。
卓上から伝った細い糸が、デニムに染みをつくる。
枚田は環の、綺麗なままの衣服を見て安堵すると、店員を呼ぶために片手を上げた。
最初のコメントを投稿しよう!