裏面

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裏面

州はまだ、βである自分を許してはいないのだろうか。それとも、ただのねじ曲がった独占欲ゆえなのか。 あの一件以来、枚田にはもうそれがわからなくなった。 いずれにせよ、州にとっては、こちらがよそ見をすることも、少しばかり優位に立つことも耐えられないのだろう。 彼はこちらを見下ろしているときだけ、いつになく上機嫌なのだ。 それは昔からだ。そう、ちっとも対等な関係ではなかった。 そして、それを実感したとき、冷ややかな願望が枚田を見下ろしてくるのだった。 彼と離れてしまいたい。そうできたら、きっと楽なのだろうな———— 思ったのは、これが初めてじゃない。 州を愛しいとか守りたいという感情が絶頂を迎えた後、大小なりとも、ゆるやかに訪れる感情だった。 あの夜から、表向きは元通りになった。 登校時に顔を合わせ、乗り換えの駅で別れる毎日。早稲田萌とは乗り合わせなかったし、州が彼女と会っている様子もない。 彼女のことはもうどうでもよかったが、気持ちを立て直すのはなかなか難しかった。 日常を取り戻していくことが虚しく、また無意味に感じられるのだった。 きっと州にとって自分は、従順な馬なのだ。 ブリンカーを装着させて視野を狭め、にんじんを目の前に釣って前進させる。 たまに暴れたときにだけ手綱を引けばよい、都合のよい存在———— そう思うと、苦しくて悔しくて、どうにかなりそうだった。 だから、彼が例の症状で休んだときは好都合だった。 発情期はおそらく1週間ほど続くから、しばらくは顔を合わせなくて済む——枚田はなるべく気持ちに波を立てぬよう努めた。 数日間はどうにか平穏に過ごすことができたのだった。
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