裏面

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* あれは、彼が休んで4日目のことだった。帰宅途中に駅で、環と一緒になった。 「あれ、マイじゃん」 しばらく見ないうちに、一段と美しさが増している。 幼少期に整いすぎていると、成長過程でどこかしら粗が出てきそうなものだが、彼ら兄弟は例外だった。 美しさの粒がひとつひとつ均一に大きくなり、それにつれて幼さが削ぎ落とされ、洗練されていくようだ。 「環、いつもこの時間に帰ってきてるの?」 「うん。だいたいこの電車」 彼は、纏わりついてくるあらゆる視線を振り払うようにランドセルを背負い直した。 兄同様、注目を浴びるのには慣れているようだった。 「州はどう?」 「んー、よくはなさそう。俺も会ってないから、わかんないけど……」 環は浮かない表情で首を傾げた。 「メンタル的には、だいぶ落ちちゃってると思う」 「落ちる?」 「1週間は部屋に隔離でしょ。お母さん以外とは誰とも話せないしね」 枚田は、環の小さなつま先を見つめた。 よく磨かれた革のローファー。その足取りは心なしか重そうだ。 「そうだ。マイ、うち寄っていきなよ」 すると、彼が唐突に提案した。 「え? これから?」 「どうせこのまま帰るだけでしょ。州ちゃんに顔見せてあげてよ」 「だって、州は今……」 「αじゃなきゃ大丈夫じゃん。マイはへなちょこβでしょ」 へなちょこは余計じゃないか。 いや、間違いではないが———— 「俺、州ちゃんが心配なんだよ。様子見て、話をしてあげて」 「そりゃ、俺だって———」 「じゃあお願い。こんなこと、マイにしか頼めないんだって」 それから、いつものセリフを溢した。 彼ら兄弟は、持ち前の武器の使いどころをよくわかっている。 その目でその言葉を吐かれたら、断ることなどできやしない。 枚田が肯定しようと唇を開きかけた瞬間から、環はもう、うっすらと笑みを浮かべていた。
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